警察が把握している犯罪の件数は、じつは氷山の一角だといわれています。被害届は出ていなくても、保護者の見ていないところで、子どもが「ヒヤリ」「ハッ」とするような危険なできごとはたくさん起きているのです。

 子どもが犯罪にあう危険が最も大きくなるのは、①犯人が存在し、②子どもが存在し、③見守りの目が存在しないという3条件が揃ったときです(図1)。そこで、子どもが「ヒヤリ」「ハッ」とするような危険なできごとにあった場所・時間を調べ、子どもが行動する範囲と重ね合わせることで、地域にあった防犯対策をたてる方法を考えました。被害情報を収集し、共有するためのポータルサイトづくりや、防犯のためのワークショップも行い、子どもの被害防止を科学的に進めることに役立つツールを作りあげました。

 「ヒヤリ・ハット」の実態を調査するために、つくば市内の6つの小学校で、被害にあった時間・場所・被害の内容などをくわしく記録する「危険なできごと調査」を行いました(図2)。その結果、この地域においては、学年や性別で危険なできごとの経験率はあまり変わらず、「低学年の女子は危ない」などの思いこみが危険であることがわかりました。また、場所については道路や公園での被害が多いこと、時間帯では、危険と思われていた登下校中以外の時間にも被害が多いことがわかりました。
 子どもの行動範囲を調べる「日常行動調査」では、小型GPSを80名の児童に配り、2週間にわたって行動を記録しました。そこから、子どもたちが行かないだろうと大人が思っていた場所でも、実際には子どもが遊んでいることがわかりました。

 こうして集めたデータは、「GIS」という、犯罪の起きた場所をコンピュータで分析できるツールで重ね合わせます。すると、子どもが多く集まるぶん被害の件数も多い場所・時間帯や、子どもの数は少ないのに、被害の件数が比較的多い場所・時間帯などを、地図上で見ることができます(図3)。
 さらにGISを活用した防犯ポータルサイトをつくり、地域内の危険な場所、子どもの性別や学年別による危険なできごとの傾向などの情報を関係者の間で共有できるようにしました。

  調査で得た結果を活用して、防犯ボランティアやPTA、学校関係者とともにワークショップを行いました。なかでも、PTAが中心となったワークショップでは、「共働きの家が多い」「危険なできごとが 多発している場所がある」など、対象となった小学校区の特徴にあわせた活動を考え、じっさいに 親子で登校して通学路を点検するなどの取り組みに発展しました。

 このように、地域ごとに子どもをとりまく環境を理解し、効果的な対策を考えることが、防犯活動を地域に根づいた無理なく続けられるものにしていくためには重要です。

代表者・グループリーダー
■原田 豊:科学警察研究所犯罪行動科学部 部長
■小俣 謙二:駿河台大学心理学部 教授
■今井 修:東京大学空間情報科学研究センター 特任教授

主な実施者
■島田 貴仁:科学警察研究所犯罪行動科学部 室長 ■齊藤 知範:科学警察研究所犯罪行動科学部 研究員
■雨宮 護:東京大学空間情報科学研究センター 助教 ■菊池 城治:科学警察研究所犯罪行動科学部 研究員
■荒井 崇史:科学警察研究所犯罪行動科学部 研究員 ■中條 晋一郎:立教大学 兼任講師
■角 能:東京大学大学院教育学研究科 D3 ■岩倉 希:日本大学文理学部人文科学研究所 研究員
■仲野 由佳理:東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科 D3 ■熊谷 信司:東京大学大学院教育学研究科 D2
■高木 大資:東京大学大学院人文社会系研究科 D2
■小林 麻衣子:常磐大学大学院被害者学研究科 スーパーバイザー ■大川 朋子:日本大学大学院文学研究科 M2
■森岡 育代:東京大学大学院新領域創成科学研究科 M2 ■根岸 千悠:千葉大学大学院人文社会科学研究科 M2
■伊藤 文也:筑波大学大学院システム情報工学研究科 M1 ■渡辺 悠紀 筑波大学社会・国際学群 B4
■羽馬 梓:江戸川大学社会学部 B4 ■亀石 知織:筑波大学社会・国際学群 B4
■桐敷 妙子:法政大学大学院人間社会研究科 M1 ■温井 達也:(株)プレイスメイキング研究所 代表取締役
■佐々木 誠:日本工業大学工学部 准教授 ■渡辺 賢:(株)プレイスメイキング研究所 研究員
■相澤 道代:(株)プレイスメイキング研究所 研究補助員

協力者
■警察庁生活安全企画課 ■警視庁生活安全総務課 ■茨城県警察生活安全部 ■東京都青少年・治安対策本部
■茨城県つくば市 ■千葉県市川市 ■兵庫県神戸市須磨区 ■新潟大学社会連携研究センター
■Jerry Ratcliffe:テンプル大学刑事司法学部 教授 ■中谷 友樹:立命館大学文学部 准教授
■梶木 典子:神戸女子大学家政学部 准教授
※所属・役職は、参加終了時のもの。詳しくは研究開発実施終了報告書を参照。

【論文】

■雨宮 護,齊藤 知範,島田 貴仁,原田 豊(2008)小学校児童の空間行動と犯罪被害に関する実証的研究:兵庫県神戸市の5つの小学校を事例に,都市計画論文集,43巻3号.

■原田 章(2009)仮想街空間構成法の方法とデータ表現,甲子園短期大学紀要 27.

■鄭 炳表,座間 信作,滝澤 修,遠藤 真,柴山 明寛(2009)携帯電話を用いた災害時の情報収集システムの開発,地震工学会論文集,第9巻2号.

■雨宮 護,齊藤 知範,菊池 城治,島田 貴仁,原田 豊(2009)GPSを用いた子どもの屋外行動の時空間特性の把握と大人による見守り活動の評価,ランドスケープ研究,72巻5号.

■雨宮 護,島田 貴仁(2009)都市の空間構成と犯罪不安との関連:地域特性を考慮した防犯まちづくりにむけた基礎的研究,都市計画論文集,44巻3号.

■菊池 城治,雨宮 護,島田 貴仁,齊藤 知範,原田 豊(2009)声かけなどの不審者遭遇情報と性犯罪の時空間的近接性の分析,犯罪社会学研究,34号.

■島田 貴仁(2009).子どもの被害調査と日常活動調査―その必要性と社会実装のための試み―,犯罪と非行,162号.

■Yutaka Harada(2009)Preventing Criminal Victimization Using GIS: Measuring Routine Activities of Crime Targets and Guardians, Human Health GIS, 1, 1,18-24.

■羽生 和紀(2009)環境犯罪心理学の視点と都市計画への期待,都市計画,282.

■雨宮 護,島田 貴仁,菊池 城治,齊藤 知範,原田 豊(2009)犯罪者の視点から見た防犯環境設計の有効性の検討:全国の被収容者を対象とした質問紙調査報告,都市計画報告集,8-2.

■雨宮 護(2009)日本における都市防犯研究の現状と展望,都市計画,282.

■原田 章(2010)仮想街空間構成法の子どもへの適用,甲子園短期大学紀要,第28号.

■雨宮 護,島田 貴仁,菊池 城治,原田 豊(2010)公園における問題対応行動への意図形成と近隣住民への信頼感との関係,ランドスケープ研究,73巻5号.

■雨宮 護,畑 倫子,菊池 城治,原田 豊(2010)保護者による子どもに対する行動規制の要因と子どもの遊びへの影響に関する実証的研究:茨城県つくば市の一小学校を対象に,都市計画論文集,45巻3号.

■菊池 城治,雨宮 護,島田 貴仁,齊藤 知範,原田 豊(2010)近接反復被害の罪種間比較:時空間K関数の応用,GIS理論と応用,18巻2号.

■齊藤 知範(2010)子どもの犯罪被害の把握とその予防,青少年問題,638号.

■島田 貴仁,齊藤 知範,雨宮 護,菊池 城治,原田 豊(2010)GPSによる小学生児童の日常行動の測定:兵庫県神戸市の公立小学校を例にして,GIS理論と応用,18巻2号.

■雨宮 護,菊池 城治,畑 倫子,佐々木 誠,温井 達也,今井 修,原田 豊(2010)簡易GPSロガーとシール式日記を用いた子どもの行動調査法,地理情報システム学会講演論文集,19.

■齊藤 知範(2011)犯罪学にもとづく子どもの被害防止,ヒューマンインタフェース学会誌,Vol.13,No.2.

■齊藤 知範(2011)子どもの安全に関する研究動向,犯罪社会学研究,36号.

■Seiji Shibata, Kazunori Hanyu, Tatsuto Asakawa, Takahito Shimada & Kenji Omata(2011) People's Crime Perception and Attitude towards Community Crime Prevention Activities in Japan. Journal of ASIAN Behavioural Studies, Vol. 1, No.2, 21-3.

■雨宮 護,島田 貴仁,高木 大資(2011)千葉県市川市における都市公園へのネットワーク型街頭防犯カメラの設置例と市民の態度,ランドスケープ研究,74巻5号.

■原田 豊,菊池 城治,荒井 崇史,雨宮 護,今井 修,井上 佳昭,広原 隆(2011)流し録り音声による野外調査記録作成支援ソフトウェアの開発,地理情報システム学会講演論文集.

【メディア報道・投稿】

■2007年12月26日,朝日新聞夕刊,プロジェクトの紹介.

■2009年2月23日,朝日新聞科学面,泥棒撃退法 工学で見えた.

■2009年11月24日,プレスリリース「つくばにおける学校調査・住民調査の実施について」,つくば国際会議場小会議室.

■2009年11月25日,茨城新聞,地域に応じ防犯対策-つくばで実態調査へ.

■2009年11月25日,読売新聞(茨城版),子供の犯罪被害抑止へ調査-住民意識や地理分析.

■2009年11月26日,常陽新聞,子どもの犯罪被害分析-つくば市で調査へ.

■2009年11月30日,朝日新聞(茨城版),つくばで防犯アンケート-地域に即した対策づくり.

■2009年11月30日,産経新聞(茨城版),地域に合った防犯対策を-つくばで調査,分析.

■2009年11月30日,東京新聞(茨城版),来月、つくばで大規模調査-子どもの被害防止へ.

■2009年12月5日,常陽リビング,子どもを犯罪から守るために-研究グループが地域住民と児童・保護者にアンケート調査.

■2011年7月,科学技術白書,地域の課題達成に向けた知の統合-PTAの参加による子どもの防犯研究(茨城県つくば市).

■2011年8月9日,神戸新聞,犯罪から子どもを守れ-科学的対策を専門家が提案-.

【受賞】

■2010年6月10~11日, Best Presentation Award, George Kikuchi, Mamoru Amemiya, Tomonori Saito, Takahito Shimada & Yutaka Harada, A Spatio-Temporal Analysis of Near Repeat Victimization in Japan, The 8th National Crime Mapping Conference, 英国マンチェスター.

■2010年11月12日,優秀研究発表賞,菊池 城治,雨宮 護,齋藤 知範,島田 貴仁,原田 豊,子どもの空間行動シミュレーションシステムの開発,CSIS Days 2010,東京大学空間情報科学研究センター.

【その他】

■2008年,科学警察研究所犯罪行動科学部犯罪予防研究室,子どもの被害の測定と防犯活動の実証的基盤の確立,JST News,vol.6 No.5,科学技術振興機構.

■2009年,原田 豊,『子どもを守る取り組み』を科学的に進めるために,BAN,2月号,11-14.

■2009年,原田 豊,犯罪・安全・安心とGIS,村山 祐司,柴崎 亮介編『生活・文化のためのGIS』,97-116,朝倉書店.

■2009年,原田 豊,犯罪を減らすためになにをどう探るか,佐藤 健二,山田 一成編,社会調査, 243-258,八千代出版.

■2010年,原田 豊,わが国での実証的犯罪研究の推進のために,岩井 八郎,近藤 博之編,現代教育社会学,203-207,有斐閣.

■2010年,島田 貴仁,渡辺 昭一,齊藤 知範,雨宮 護,菊池 城治,畑 倫子,環境犯罪学と犯罪分 析,社会安全研究財団(原著 Richard Wortley and Lorraine Mazerolle. 2008. Environmental Criminology and Crime Analysis. Willan Publishing).

■2011年,科学警察研究所犯罪予防研究室,子どもの暮らしと安全に関するアンケート調査-つくば市内の5つの小学校における調査結果-.

■2011年,小俣 謙二,島田 貴仁(編著),犯罪と市民の心理学-犯罪リスクに社会はどうかかわるか-,北大路書房. br2011年,原田 豊,科学が支える子どもの被害防止-ともに取り組むための手引き-.

■2011年,今井 修,子どもを守る取り組みを続けるための防犯ワークショップの考え方.

■2011年,科学警察研究所犯罪行動科学部犯罪予防研究室,危険なできごと調査マニュアル.

■2011年,科学警察研究所犯罪行動科学部犯罪予防研究室,日常行動調査マニュアル.

■2011年,株式会社プレイスメイキング研究所,子どもを知って地域で取り組む防犯ワークショップマニュアル.

■2011年,浅川 達人,KS法クラスター分析による地域特性の分析マニュアル」.

■2011年,小俣 謙二,芝田 征司,浅川 達人,羽生 和紀,原田 章,<地域防犯活動に関する提言書>無理のない,持続可能な防犯活動を実現するための提言.

■2011年,羽生 和紀,犯罪に関する住環境評価尺度マニュアル.

■2011年,原田 章,子どものリスク認知測定ツールキット・マニュアル(実施者用).

■2011年,原田 章,子どものリスク認知測定キット・マニュアル(子ども用).

■2011年,浅川 達人,佐藤 俊明,KS法クラスター分析ツール for ArcGIS.

■2011年,浅川 達人,佐藤 俊明,KS法クラスター分析ツール for Excel.

■2011年,原田 豊,まちあるき記録作成支援ツール「聞き書きマップ」.

■2011年,原田 豊,科学に支えられた犯罪被害防止のために,認定特定非営利活動法人全国被害者支援ネットワーク,日本被害者学会,公益財団法人犯罪被害救援基金,警察庁犯罪被害者支援室(編)犯罪被害者支援の過去・現在・未来-犯罪被害者支援20年・犯罪被害給付制度及び救援基金30年記念誌-,86-90.

■2010年11月1日,原田 豊,インタビューみちびく人々,QZ-Vision Read vol.6.< http://qz-vision. jaxa.jp/READ/interview06.html >

■2010年11月23日,プレイスメイキング研究所,「大きなつくばの応援旗」をつくろう!,イベントに参加した親子の約500人.

■2010年9月19日(2回),NHKニュース,G空間Expo出展紹介.

■2010年11月18日,NHK松江放送局,今井 修,GISを活用し防災マップ作成.

■2010年11月23日,ラヂオつくば(地域密着型ラジオ84.2MHz)出演,つくば報告会開催に向けたアナウンス.

■2010年11月24日~12月2日(計18回),ラヂオつくば,報告会開催のお知らせを放送.

■2011年2月1日,つくば市報「広報つくば2月号」,「子どもの防犯研究・つくば報告会」が開催~地区の事情に応じたオーダーメイドの防犯対策~.