S3FIRE記念フォーラム「サービス科学黎明期からこれまでの軌跡と今後の展望」開催報告

2010年にスタートし、今年度で終了する「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」の研究成果の紹介と、サービス科学研究の現状と今度の方向性について議論する記念フォーラム「サービス科学黎明期からこれまでの軌跡と今後の展望」が開催された。研究成果の発表とともに、基調講演、特別講演に続き、2件のパネルディスカッションが行われた。会場となった東京大学 伊藤謝恩ホールには約170名が集まり、プログラムが目指してきた「サービス科学」という新領域が着実に育ってきていることと、また今後への期待を感じられる内容となった。

  ■日時:2017年2月21日(火)10:30~17:15 (開場10:00 )
  ■会場:東京大学 伊藤謝恩ホール
     (東京都文京区本郷7-3-1 東京大学伊藤国際学術研究センター)

  ■主催:国立研究開発法人 科学技術振興機構 社会技術研究開発センター

冒頭で岩瀬公一センター長から、「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」の7年間の振り返りのためのフォーラムであるという趣旨説明があった。本プログラムはこれで終了するが、「ハイリスク・ハイリターンの研究を積極的にやっていこうという事業を始める」として、次年度から始まる新事業「未来社会創造事業」の紹介があり、サービス科学の関係者にも応募を呼びかけた。

講演する岩瀬センター長講演する岩瀬センター長

続いて、「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」のプログラム総括の土居範久氏から米国で始まった「サービス・サイエンス」という新領域から、RISTEXでプログラムができるまでの経緯、プログラムの振り返りの概要解説があった。

講演する土居氏講演する土居氏

「サービス・サイエンス」という新しい領域は、2004年に米国で出されたパルミサーノレポートから始まった。そこでは、「サービスをサイエンスしないと、21世紀のアメリカはない」という趣旨が唱われた。この流れを受けたうえで、日本でも第三期科学技術基本計画や、経済成長戦略大綱などにもサービス・サイエンスの考え方が導入された。

文部科学省では通称「生駒委員会」と呼ぶ検討会が作られ、サービス科学やサービス工学の推進に関する検討が始まった。「これをうけて、JST/RISTEXで新しいプログラムが立ち上がった」と土居氏は説明をした。新しい学問領域の立ち上げにあたり、関係者にインタビューをしたりアイデアを募集したりした上で、ワークショップにより課題抽出や研究アプローチの留意点などを検討してきたという。さらに、公開フォーラムを開催し、一般の人の意見を集めた上で、これらの結果をまとめて、「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」が立ち上がった。土居氏はこれらのすべての座長を務め、プログラム発足時にプログラム総括に就任した。

プログラムの目的は、3点。「社会への貢献、サービス科学の研究基盤の構築、コミュニティ形成」と土居氏は話す。「サービス」の概念は幅広いが、このプログラムでは「サービスを提供者による、被提供者のための価値創造を目的とした機能の発現と捉えることにした」と言う。そのための方法論を構築し、それに基づいて法制度・社会経済システムを提案することを想定した。公募する研究は、具体的なサービスを対象としたサービスにかかる問題解決のための技術や方法論を研究する問題解決型研究と、これらの横串をさす横断型研究の2つ。

「(採択された)プロジェクトとマネージメントチームが一体となってプログラムを進めてきた」と土居氏は話し、7年間のプログラムの結果、「サービス科学研究基盤の構築と、幅広い分野でのその成果が創出された。また、マネージメントチーム自身が研究活動を展開し、サービス価値共創フレームワークを考案した」と成果を強調した。

これらの成果に基づき、4月には書籍の出版を予定している。また、日本学術会議の「サービス科学」の参照規準の策定および、日本経済団体連合会による「サービス」の標準化にもプログラム関係者が関与している。研究コミュニティの形成については、サービス学会をすでに設立して、活動を続けている。

採択プロジェクトをサービス価値共創フレームワーク

土居氏のプレゼン資料より。採択プロジェクトをサービス価値共創フレームワーク、通称「ニコニコ図」上にマッピングした。

平成25年度採択プロジェクト成果報告


淺間 一氏(東京大学 教授)

「経験価値の見える化を用いた共創的技能eラーニングサービスの研究と実証」と題した研究成果報告が行われた。研究対象は、「技能教育サービス」。問題意識として、技能伝承はこれまでは暗黙知により科学的に扱いにくいという課題があった。学習者(サービス受容者)が効率よく学習できず、教育者(サービス提供側)も学習者の状態把握が難しい。そのため、サービス事業者にとってはビジネスとしての効率が悪く成立しにくい。

そこで、研究チームでは技能の見える化と経験価値共創によってこれらの課題を解決することとした。そのための手法プラットフォームの開発を目的とし、具体的には「介護」「製造業」「スポーツ」のそれぞれの現場における技能教育の効率化を行った。

まず、満足感やアンケートによる心理評価に加えて、生理状態を計測し、学習者の客観的な満足感定量化を行った。具体的には、身体の動きはキネクトにより計測し、生理指標は脳波測定を行った。これらの計測結果による三次元身体動作、脳波、技能の運動評価、満足感評価、学習教育履歴、事故インシデントなどを書き込み、教育者と学習者の間で情報共有をできるようにした。

これらのツールとデータベースを、実際のスポーツおよび介護教育の現場に導入した。同様にして製造現場での部品加工プロセス教育にアプリとして導入したその結果、このデータベースを使うことで、学習者にとって効率的な学習ができるだけでなく、指導者にとっても指導の見直しに有効であることが確認できたという。

講演する淺間氏講演する淺間氏

下村 芳樹氏(首都大学東京 教授)

「高等教育を対象とした提供者のコンピテンシーと受給者のリテラシーの向上による共創的価値の実現方法の開発」と題した研究成果報告が行われた。まず、文脈価値というサービス提供者と受給者の間の相互作用による価値共創が重要という考え方があるが、この共創のためには、提供者と受給者が必要なコンピテンシーを適用することが必要であることを、研究背景としてあげた。そのコンピテンシーの使い方の前提として、提供者と受給者がコンテキストを理解して適用することが必要であるが、コンテキストは主体の認知に強く依存するという問題がある。そこで、提供者と受給者の間におけるお互いのコンテキスト共有の方法論の確立を目指して、研究を行った。

研究対象のフィールドとしては、文脈価値の提供が強く求められている高等教育の現場を選んだ。まず提供者と受給者がお互いのコンテキストを共有し、すりあわせるための教育の実施手順と支援ツールの開発を目的とした。

具体的には、学習状態マップ、学習状態マトリクス、教育サービスの実施手順の3つのツールを開発し、東京大学などの英会話の授業に導入した。授業では東大と米マサチューセッツ工科大学の学生がネットを介して定期的にコミュニケーションを取りながら英会話を学習する。学生らの学習意欲等を授業開始時と終了時に測定したところ、学習者の能力上昇が見られた。この間、教師と学習者は自分たちの課題や今実施していることを、上述のツールを活用することで把握して共有できるため、合意形成が可能になったためだとした。

講演する下村氏講演する下村氏

西野 成昭氏(東京大学 准教授)

「価値創成クラスモデルによるサービスシステムの類型化とメカニズム設計理論の構築」と題した研究成果報告が行われた。まず、顧客・従業員・経営者の三者からなるサービス産業における構造的課題が指摘された。例えば美容室においては、市場規模、利益共に減少傾向、従業員の年収も低く、顧客アンケートでは満足度と価格のギャップがある。三者ともに幸せではない状況だが、これはサービス産業で共通する性質だと西野氏は指摘をする。

サービス産業そのものの構造を再設計する必要があるが、これまでのアプローチでは有効ではなく、あらたなサービス設計のための理論体系の構築が必要として、研究をおこなった。具体的には、複雑なサービスを構成する主体・要素の関係性や構造を記述し、分類するという「アナリシス」と、サービスシステムにおけるメカニズム設計に資する基礎理論を構築する「シンセシス」の二本柱を目標とした。

まず前者では、サービスシステムのベンチマーキング分析を、企業・従業員・顧客の3つの視点から分析した。これらの結果を参考にし、ゲーム理論、メカニズムデザインの理論フレームを応用して、一般化された価値創生モデルを開発した。さらに、このモデルを用いて、小売業や美容業におけるサービス構造の分析を行った。

後者では、サービス一般化モデルを用いて、実験室における経済実験を行った。本部(企業)・従業員・消費者からなるステークホルダーにおいて、満足度と利益の相関を分析した。例えば、従業員満足度と顧客満足度が低いときには、何が課題としてあるのか、何が起こっているのか、といったことが明らかになった。

これらのモデルを活用することで、新しいサービス設計のための指針や、情報の流通の制御等により、よりよいサービス設計が行えるとまとめた。

講演する西野氏講演する西野氏

基調講演:「S3FIREがもたらしたもの ~サービソロジーへの招待~」
村上 輝康氏(産業戦略研究所 代表)

村上氏は、「研究コミュニティを創るという目的があったが、開始から2年でサービス学会が発足した。これまで何をしてきた何をもたらしたか話したい」として、「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」(S3FIRE)の7年間の活動を振り返った。

土居氏の講演と同様に、プログラム発足の経緯と活動の詳細が紹介された。

プログラム公募にあたっては、初年度応募は166件あり4件が採択された。4回の公募全体でも391件の応募があり、計18件が採択され、研究を進めた。またプログラムが中心となった「サービス学会」の発足にあたり、「サービス学、サービソロジーというひとまわり大きな学問のジャンルを生み出したことになる」とした。

プログラム全体のマネジメントにも試行錯誤を繰り返しながら、力を入れてきたことが語られた。例えば、マネジメントの方針として、当初はサービスのコンテンツチャネル、おもてなし、集合知といった多様な側面を取り上げていたが、3年目からは「価値共創」を中核概念とするように変わった。その理由として、「サービス・サイエンス」という言葉の産みの親であるIBMのジム・スポーラー氏が来日した際に、「サービス・サイエンスは価値共創を見極めるのが非常に重要になっているというメッセージがあった」という。

プログラムの成果として、前出のサービス価値共創フレームワーク(ニコニコ図)の開発が強調された。もともと「新井・下村モデル」と呼ぶサービスの定義を拡張したもので、提供者、利用者、コンテキスト、価値提案、価値発信などの17の構成概念と関係性を整理して一枚の図に落とし込んだ。

最後に、プログラムでは18の研究プロジェクトを進め、サービス価値共創の概念的フレームワークと方法論を検討し成果をあげたが、「まだはじまったばかりで、これからも進めていかなければならない」と締めくくった。

講演する村上氏講演する村上氏

パネルディスカッション1

テーマ:「価値共創とサービソロジー」

【モデレーター】
村上 輝康氏(産業戦略研究所 代表)

【パネリスト】
石黒 周氏 (Sケアデザイン研究所 代表取締役社長)
丹野 慎太郎氏 (産業技術総合研究所人間情報研究部門 テクニカルスタッフ)
原 良憲氏 (京都大学経営管理大学院 教授)
福田 亮子氏 (ベネッセスタイルケア ベネッセ シニア・介護研究所 主任研究員)
藤村 和宏氏 (香川経済学部 教授)

パネルディスカッション1「価値共創とサービソロジー」では、書籍「サービソロジーへの招待」の第2部の執筆者および関係者がパネリストとして登壇し、この本の中でのそれぞれの主張と、サービス・イノベーションへの貢献が議論された。

村上氏のスライド
書籍「サービソロジーへの招待」に記述されたプログラムの研究プロジェクトを、価値共創フレームワーク上にマッピングすると上記のようになる。村上氏のスライドより。

石黒氏は、淺間氏が講演した「経験価値の見える化を用いた競争的技能eラーニングサービスの研究と実証」プログラムのメンバーとして参加し、暗黙知の塊である技能教育に、経験価値を可視化する試みを紹介した。

丹野氏は、金融サービスをフィールドとした研究を行い、「サービス設計というと時間や距離といった効率化を前提とした設計が多いが、サービスは人を対象としているので効率化だけではなく、価値を設計することが必要。そのための測定と尺度が必要でつくろうとなった」と研究の紹介をした。

原氏は「日本では当たり前だが、海外から見ると謎」という価値共創について、江戸前寿司を例にエスノメソドロジーの手法を使い分析した研究を紹介した。「これを一般化することで、日本のおもてなしやホスピタリティをサービスの価値向上に適用できるのでは」と主張した。

福田氏は、介護サービスでの質・量を担保する研究について紹介をした。介護サービスは、24時間365日サービス提供をすること、利用者の満足度評価が難しい、介護報酬を介すため直接的なリターンを得るのが難しいという、ほかのサービスと異なる特徴があるとしたうえで、「気付き」つまり利用者の状態把握を可視化することが介護サービスの質・量ともに左右するとした、そこで、スマホを使い、「気付き」データの記録を続けることで、サービスの質の向上だけでなく、介護者のスキル向上にも繋がったとした。

藤村氏は、「便益遅延性」とした概念を提案して、教育や医療現場におけるサービス利用者の満足度にいかにつなげるかを考察した。「便益遅延性」とは、サービスを受けてから、利用者がメリットを感じるまでの時間的な遅延が生じることを指し、そのためにほかのサービスと同様の評価が難しく、サービス関係者のモチベーションの維持が課題となっている。教育や医療などの便益遅延型のサービスで受ける便益(メリット)は、機能的便益、感情的便益、価値的便益があるが、藤村氏は、価値的便益をうまくつかうことで、顧客モチベーションをうまく維持していくことが必要だと主張をした。

また、これからのサービソロジーに必要なものとして、石黒氏は「現場から離れない、サービス・イノベーションにつなげる、そのためにも科学的なアプローチと先端技術を取り込むことが重要」、丹野氏は「幸せ」、原氏は「サービス残業に対してR&D部門が役割を担うこと、研究基盤としてのフレームワークの明確化、サービス価値創造人材育成と持続・発展の仕組み、若手の人材育成」、福田氏は「サービスを受ける型の状態把握、やり方よりも見方・察する力・考え方をやるべき」、藤村氏は「長期的な価値を考えるべき、協働、モジュール化できる組織」を挙げた。

右からモデレーターの村上氏、パネリストの石黒氏、丹野氏、原氏、福田氏、藤村氏右からモデレーターの村上氏、パネリストの石黒氏、丹野氏、原氏、福田氏、藤村氏

招待講演:「世の中の体温を上げる ~社会に与えるサービスとは~」
遠山 正道氏(株式会社スマイルズ 代表取締役社長)

「スープストックトーキョー」などを運営するスマイルズ代表取締役社長の遠山氏が、自らの活動や事業について講演を行った。

遠山氏は1985年に三菱商事に入社し、その後独立してさまざまなサービス・事業を生み出してきたが、そのスタートは「なんでこうなっちゃうの?」という世の中に対する疑問やいらだちだったと語る。「サービスとは自ら生み出すもの。うちはマーケティングがない会社だ。自分たちがやりたいことをやる」(遠山氏)。

また、遠山氏にとってサービスとは「『共感』の手段」であり「『喜び』の起源」であると話す。たとえばスープストックトーキョーを立ち上げた時の企画書では、スープを軸にして共感を持って集まってくる人たち、お客さんにご共感を得られれば次へと広がっていくという物語を描いた。また、仕事の動機づけは、「おいしかった」「ありがとう」といったお客さんからの言葉であり、そのためのサービスであると話す。

三菱商事の会社員だった遠山氏が経営者として多くの事業と立ち上げるきっかけとなったのは、入社から10年を経て、代官山やニューヨークで絵画の個展を開いたことだったという。「お世話になった人たちに手紙を書き、おかげさまで個展は終わったが、これから私は成功することを決めました。何をするかは未定だが、それで皆さんにお世話になったのに報いますと書いた」と話す。

その後、三菱商事から関連会社のケンタッキーに出向して「スープのある1日」とした企画書を作成。文章はすべて過去形でつづった、映画の脚本のような企画書だったという。これが1997年のこと。この企画書をもとに、1999年にスープストックトーキョーを立ち上げた。さらに、ネクタイのブランドの立ち上げ、リサイクルショップの立ち上げなど次々と事業を立ち上げ、成功させていった。

「20世紀は経済の時代だったが、21世紀は文化・価値の時代だ」と遠山氏。需要が供給を上回り作れば売れた20世紀と異なり、21世紀は供給が増えて需要は減った。「椅子取りゲームのプレイヤーがやたらと増えて奪い合いになっている。ではどうするか。プレイヤーとして奪い合いをするよりも、新しい価値を提示して、椅子をもってこればいいのではないか」と話す。株式会社スマイルズは、企業理念として「生活価値の拡大」を掲げているという。

また、最近では、「これまでなかった価値をつくる」として、「個人でやっている仕事に関心がある」と話す。例えば、スマイルズの社員がひとりで始めたバー。社員夫婦が豊島に移住し、始めた「檸檬ホテル」。銀座の5坪の店舗でたった1冊の本を売る「森岡書店」。「分母が小さいからリスクも少ない。だから思い切ったことができる。個人のアイデア、センス、コミュニケーション、情熱、リスクがそのまま仕事と重なる。だから人生と仕事が重なってくる。うちでは、こういう小さい事業を30〜50くらいやりたいと思っている」と話す。

講演する遠山氏

パネルディスカッション2

テーマ:「サービソロジーとイノベーション」

【モデレーター】
原 辰徳氏 (東京大学人工物工学研究センター 准教授)

【パネリスト】
遠山 正道氏 (株式会社スマイルズ 代表取締役社長)
新井 民夫氏 (芝浦工業大学 教授)
戸谷 圭子氏 (明治大学グローバル・ビジネス研究科 専任教授)
西野 成昭氏 (東京大学 准教授)

パネルディスカッション2では、書籍「サービソロジーへの招待」の第3部のテーマである「サービソロジーとイノベーション」について、サービスを設計するということはどういうことか、大学や学会で行われる行動のための理論構築から、実世界での行動とのかかわりについて、執筆者であるパネリストによって議論された。

まず9章を担当した西野氏は、サービスを設計するということは何なのか、プロセスに従って解説をした。一般に製品設計のプロセスは設計、生産、組立、輸送、販売、導入、仕様、保守、廃棄からなるが、サービスにおいては、使用がメインとなり、使用、注意、関心、検索、構成、適応、創出、情報共有、使用がループするユーザの使用サイクルが中心となる。その点から、一般的なものづくりの設計とサービス設計では基本的に異なる行為であるとして、サービス設計においては「利用者との相互作用をどのように作り出すか、相互作用の部分の構成を考えるのが重要だ」と指摘した。

一方、10章を担当した戸谷氏は冒頭で「私はこの書籍を『ななめ』に見ているという立場」とした上で、「このプロジェクトの特徴でもあるが、工学系に寄りすぎている。サービス設計が工学だけで構成されるのはおかしい」と申し出て、経済学者であり実務家としての視点から著者に加わったと説明した。戸谷氏は「まずは価値観。そこがなくて技術や方法論だけでは不足。経済的価値だけではなく、エモーショナルな価値、知識の価値が今重要視されている」と指摘した。さらに、「もうひとつは長期で見ることが重要。経済的価値は決算ごとに見られるが、感情的価値は短期でははかれない。今多くの製造業が行き詰まって新たなビジネスモデルの創出と言うが、だいたい3年で収益の成果が出ていないとやめてしまう。そうではなくて、エモーショナル、ナレッジの蓄積が可視化できればもっと長期でやっていこうと待てるはずだ」と訴えた。

新井氏は、技術革新によりサービス業がどのように変わっていくかという立場で執筆をした。たとえば、ロボットによる価値共創の強化、人工知能や自動運転によるサービス展開などが現在も検討されている。一般に技術革新は高効率化を促進してきたが、サービス業においては「価値提案を改善する。それに加えてインタラクションを強化する」と提案をした。

「(サービスの)現場で大切にしていることは何か」との問いに対して、遠山氏は、「お客さんからの『おいしかったよ』『ありがとう』が私たちの喜びだし、活力。サービスで一番大切なのはお客さんに手渡す時。そこに全部集約する」と話した。

工学的には設計、経営、社会システム全体のデザインによって客観的な指標が使われるが、サービスにおいては、人間の主観が重要になる。これに対して学術的な視点から意見を求められ、西野氏は「アイデアは人間の根源的な行動なので、そこを科学するのは難しい」、戸谷氏も「世界観を作ることを科学的につくる、というのはそういうものではない。世界観をつくるのは『思い』だ。それを分解して、どう経営に落とすか、というところでは科学的な手法は、すでに経済学ではたくさんある」と指摘をした。また、遠山氏は「私が大切にしているのは『ことば』。体系だっているわけではないが、言葉をつむぎ、それが次の言葉をつむぐ」と話した。

原氏から、サービス学と実務家の協働により、2〜30年後にどのようなサービスが生まれるかという問いが出された。

これに対し西野氏は「ちょっとした仕組みで、中小企業でもサービスはできる。そうするといかに豊かに発想するかが重要だ」として、時間がある人が配達員になってレストランの料理を配達するサービスであるUberEATSを例に挙げた。

戸谷氏は、「根本的には経営と技術は両輪で進む」とした上で、金融サービスのコンサルティングファームを経営する実務家の立場から意見を述べた。金融業界をカスタマーセントリック(顧客中心主義)に変えることを目的としているといい、さらに、世界規模でのシェアリングが新たなサービスの方向性だと指摘した。

新井氏は、技術決定論的な立場から、「今後ロボットテクノロジーによって自動化が進むことが確実」とした上で、利用者の知識水準が向上し、利用者と提供者の情報の非対称性の解消が進む中で、両者が手を取り合う価値共創が重要になるとした。

遠山氏は、「今後は『食べログ』のようにひとりひとり個人が評価されていく時代になるのではないか」とした上で、その人が行うサービスの要素が評価対象となるのではと話した。「いいことをすれば報われる時代になってくる。一方でダメな人はダメな分しか得られなくなる」(遠山氏)という。これに対し、戸谷氏は、「ネット上ではすでに個人の行動情報が得られる。それで評価をしてお金の貸し借りをするというサービスはすでにある。個々人の行動自体が評価されるというのは現実にすでに起こっている話だ」とした。

こうした、個々人が評価される時代において、遠山氏は、「100年生きる時代となると、定年で引退というこれまで通りにはいかない。個々人が力をつけると同時に、生きる価値を獲得しないと行きてはいけない。組織の中で得られることもあるが、小さいほうが個人の考え方がそのまま出て実現しやすい。個々人の考えが評価され、生きる喜びを充足させていく、そういう関係性が仕事の喜びになるのではないか」と話した。

右からパネリストの遠山氏、新井氏、戸谷氏、西野氏右からパネリストの遠山氏、新井氏、戸谷氏、西野氏

閉会にあたり、津田博司 RISTEX企画運営室 室長が登壇・来場への感謝を述べ、「RISTEXはもともと人文社会科学系研究者も現場のステークホルダーも協働しながら社会実装しましょうというのがミッション。研究者とステークホルダーが価値の創造をする。その意味でもサービス科学のプログラムの意義は、RISTEX共通のコンセプトと言える」と締めくくった。