「安全安心」研究開発領域について

【安全安心】

領域総括: 堀井 秀之(東京大学大学院工学系研究科 教授)

近年、人々の安全安心を脅かす事象が頻発してます。これらの中には、技術の欠陥・未成熟、人工システムの誤用・悪用、環境変動および人為による自然災害の拡大、病虫害の多発や感染症の新興・再興、さらにはテロの脅威など、その基盤に科学技術文明の発展があるものが多くみられます。きわめて多くの社会事象が係わるこれらの脅威への対処は、特定の個別技術分野だけでは十分でなく、関連する技術を統合するシステム技術でも完結しません。技術にはじまり、社会制度(法令、経済化など)の整備、さらには安全安心文化とでもいうべき行動様式にいたる人類活動のすべての側面で対応しなければなりません。「安全安心」研究開発領域では、このような視点から研究開発を進めます。

複雑多様な安全安心に係わる問題に対して、個別的な問題解決を図り社会に貢献する一方で、それらの成果を帰納して安全安心に係わるメタ知識を獲得し、安全安心に係わる基盤的知識の形成を期待します。

安全で安心な社会の構築は、政府の「第3期科学技術基本計画」における科学技術政策の理念と政策目標として、理念3 に「健康と安全を守る」とあり、目標6 において、「安全が誇りとなる国」として織り込まれており、また、文部科学省の「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会報告」(平成1 6年4月) においてもその重要性が謳われています。社会技術として喫緊な研究開発課題であります。

研究開発目標

「安全安心」研究開発領域では、社会問題を解決し、社会を円滑に運営するための広い意味での技術を社会技術と定義し、以下の5項目を目標とします。

  1. 安全安心社会を構築するための社会技術を開発する
  2. そのために必要となる基盤的知識・手法を開発する
  3. 社会技術を開発するための方法論を構築する
  4. 社会に実装される社会技術とするための方法論を構築する
  5. 社会技術の概念を普及させ、社会技術の実装を促す

研究開発推進体制

以下の研究開発体制により、研究を推進します。


ミッション・プログラムI「安全性に係わる社会問題解決のための知識体系の構築」(平成17年度終了)

研究統括:堀井 秀之(東京大学 大学院 工学系研究科 教授)

1.安全に係わる社会問題を解決するための社会技術を開発すること 2.そのために必要となる知識基盤を構築すること 3.社会技術を開発するための一般的方法論を構築することを目標として研究開発活動を実施しました。

研究体制としては、安全に係わる領域をカバーする研究グループ、領域横断的な研究グループ、さらに全体を取りまとめる総括研究グループを設け、工学、医学、法学、経済学、社会心理学等の研究者が協働し、異なる領域の比較検討やクロスオーバーを図って研究を進めました。

主な研究開発の成果は以下の通りです。

  • 安全に係わる社会問題を解決するための社会技術の開発
    • 医療安全達成のための診療ナビゲーションシステム
    • 事故リスク分析モデルを用いた交通事故対策評価システム
    • 緊急時対応のマルチエージェントシミュレーション組織違反を防止する心理学的装置
    • 学産業の安全性に関する社会的合意形成支援システム
    • 地震被害の可視化技術
  • 社会技術の開発に必要となる知識基盤の構築
    • 会話を通じた知識の流通支援技術失敗知識を用いた知識流通方法
    • オントロジーに基づく知識の社会共有支援技術
  • 社会技術を開発するための一般的方法論の構築
    • 社会技術設計の方法論
    • 安全安心確保のための法制度設計のフレーム
    • リスク問題の分析とガバナンス形態の立案手法

研究期間

平成13年度から5年間。(平成17年度終了)

評価

中間評価

ミッション・プログラムIの事後評価について

平成18年6月30日

ミッション・プログラムI「安全性に係わる社会問題解決のための知識体系の構築」の事後評価については、平成17年11月から進められ、平成18年3月31日に報告書がとりまとめられました。その後、報告書に対する研究実施者からの意見書の提出、評価委員会と研究実施者の意見交換、評価報告書における提言に対するセンターの考え方のとりまとめを行い、評価に関する一連の資料がとりまとまりましたので公表します。評価に関する一連の資料として公表するものは、次の通りです。

資料


ミッション・プログラムIの中間評価について(概要)

平成16年6月30日

ミッション・プログラムI「安全性に係わる社会問題解決のための知識体系の構築」の中間評価については、「社会技術研究に係る課題評価の方法等に関する達」に基づき、吉川弘之独立行政法人産業技術総合研究所理事長を委員長とする中間評価委員会において平成15年11月から評価が進められておりましたが、このほど「ミッション・プログラムI中間評価の結果について」がとりまとめられましたので、その内容を報告します。

1.中間評価の実施

社会技術研究システム第6回システム運営会議(平成15年6月9日開催)において中間評価委員会委員(別表1)及び評価項目(別表2)について検討、決定した。同委員会では平成15年11月から16年3月まで、4回の本委員会と2回の研究課題別ヒアリング(別表2)を開催し、評価項目に沿って研究評価が実施され、中間評価委員会報告書が取りまとめられた。これを受けて、第10回システム運営会議(平成16年5月24日開催)において同報告書を承認した。

2.中間評価委員会評価報告書の概要

(1)評価報告書の構成

中間評価委員会では、ミッション・プログラムIの研究評価に関する検討のほか、社会技術研究の評価はどのようにすべきか、社会技術研究はどのように進めるべきか、といった様々な議論がなされた。同委員会では、中間評価はこれからの研究を進めるに当たって、有益で建設的な意見を記述することが必要であるとして、評価委員の個別意見や評価に直接関わらない議論についても巻末に参考として記述することとなった。

(2)評価の概要

以下に評価項目毎の評価の概要を報告書から抜粋し、記述する。

評価項目1.「目標設定と進捗状況」

評価項目1.1「目標設定の適切性」

ミッション・プログラムIでは、「目標1:安全に係わる社会問題を解決するための社会技術の開発、目標2:社会技術の開発に必要となる知識基盤の構築、目標3:社会技術を開発するための一般的方法論の構築」の3つの研究目標を掲げ、また、「個別システムごとに目的、達成時期、効果確認を設定し全体モデルを合成する目的指向型モデル(object oriented model)によるアプローチを試みており、このようなアプローチ及び研究目標の設定は、適切であると評価できる。」

「各個別研究課題のシステムを合成するために必要な個別システム間の境界条件(合成のためのプロトコル)を設定し、より統一的な大目標を立てることが望ましい。」

評価項目1.2「進捗状況・目標達成度」

「目標1に対応するものとしては、」「順調に進捗していると評価できる。」

「目標2に対応するものとしては、」「進捗の程度に差はあるもののおおむね順調に進捗していると評価できる。」

「目標3に対応するものとしては、」「15年度から開始されたリスクマネジメントグループ」を除き、「順調に進捗している」

「プログラム全体としてほぼ順調な進捗状況であると評価できる。」

評価項目1.3「今後の取組方針」

ミッション・プログラムIが自ら実施した「プログラム内評価で今後の課題」として「各研究グループにおいて開発中の社会技術を完成させ、精緻化を図る一方、開発された成果を社会へ実装するための柔軟な検討を行うこと」、「各研究グループからの成果について、安全に係わる類似分野において開発された社会技術を比較し、その共通点、相違点を洗い出すことにより、社会問題の特性と相応しい社会技術との関係を見出し、社会技術立案支援の手法に発展させること」、「俯瞰的研究の成果として開発された社会技術が、既存の研究分野の中だけで開発されてきた問題解決策と比較して優位性を有していることを確認すること」の3つが「が掲げられており、プログラムの今後の取組方針としては適切に検討されていると評価できる。」

評価項目2.「成果」

評価項目2.1「(直接的)成果」

成果の発表、公表の状況は、「学会誌等への論文による発表99件、国内外の会議における口頭による発表118件」であり、「良好と評価する。」また、「今後の特許出願については十分に期待できる。」

評価項目2.2「成果の質」

ミッション・プログラムIにおける研究開発は、「普及にあたって政治的プロセスが重要となるタイプの技術一般」(例えば、遺伝子組み換え食品など)「の発展・普及に大きく貢献するものと期待でき、科学技術と社会との関係の在り方についてもひとつの新しいモデルを提示するものと期待される。また、研究開発および成果の普及の活動を通じて「社会技術」という新たな考え方が社会に提起されることも科学技術への貢献と評価できる。」

評価項目2.3「人材育成」

「社会技術研究論文集を発行する社会技術研究会の設立に協力してこの問題の解決を図ろうとしており、この活動は評価に値する。今後は、社会技術研究会の活動を外部からも十分分かるよう情報発信に協力することや、大学内で博士課程の中に関連プログラムの創設を働きかけるなどの活動も望まれる。」

評価項目2.4「アウトリーチ」

「現状ではホームページ、フォーラム、シンポジウム等を通じた研究活動・研究成果の公開を行い、社会技術の定着と普及、国民への説明責任の履行に向けた活動は行なわれているが、「社会技術」という考え方が社会に十分に浸透したとは言えず、結果として社会や潜在的ユーザーからの意見や評価の聴取などが十分には行われていないと考えられる。」

評価項目2.5「社会技術としての期待される波及効果」

ミッション・プログラムI本プログラムで「研究開発されている個々のシステムのうち一つでも社会に受容され、社会的受容の方法が示されることとなれば、社会技術研究の後続のプログラムの研究開発や成果の普及にとって有用な情報が示され、大きな波及効果といえる。」

評価項目3.「総合評価」

ミッション・プログラムIにより「研究開発された社会技術が現実社会の中で役立つものとなっていくためにそれぞれの想定される利用者(企業関係者、自治体関係者、消防関係者、衛生関係者、中央官庁関係者等)の評価や意見を開発のプロセスに積極的に取り込んでいくことが必要である。」

ミッション・プログラムIでは、「非常に興味深いプロジェクトが進行しており、各研究課題についても、継続して研究を進めるべきである。さらに当初、予定された5年間の研究期間終了後の研究の発展や、成果の蓄積、活用などの継続的な事業の枠組みについても検討すべきである。」

(3)委員長総評

以下に吉川委員長の総評を再録する。

「「社会技術」という言葉が何故生みだされたかをまず述べよう。これは、自然科学を根拠とする技術は「科学技術」で、一方、社会科学を根拠とする技術が社会技術という位置づけである。

技術は、近代を特徴付ける科学とは関係なく、人類の長い歴史を通じて存在していたと考えてよいであろう。例えば、水車は、流体力学はもちろん、重力の概念すら明確でない遠い昔から存在した。水車は、水流の持つ位置および運動エネルギーを、力学的に回転エネルギーに変換するものであるが、水車が広く使われていた古代や中世では、水車技術を支える意味での普遍的知識としての、流体力学、エネルギーなどについての知識はなかったと言ってよい。

同じように耕作器具は機械工学の知識なしに作られ使われていた。さらに、家畜や農作物の品種改良や、飼育、栽培も、生命科学の知識に裏付けられていたわけではない。しかし、近代以降、力学、熱学などの、自然科学を説明する強力な知識体系が構成されはじめ、それは無矛盾性、網羅性などを意図しながら自然現象全体を説明することに成功して来ている。水車や器具は、その背景にある科学的知識の成立によって飛躍的に進歩する。古代の水車と、現代の水力発電の水車はその性能において全く異なる。

一方、自然科学が扱わなかった人間や社会に固有の技術も、もちろん人類の歴史とともに長い歴史をもっている。集団の生成、統治、階級などがあり、仕事を分担する分業も、有効な「技術」である。このように、人間から見て対象であった自然を利用する技術だけでなく、人間が自らを、いわば統御する技術も存在していたのである。

しかし、自然を利用する技術が、自然を対象とする自然科学によって格段の飛躍を見せたのに対し、自らを統御する技術の方は、そのような状況になっていないと考えられる。このことは、人類にとって解決が迫られている諸問題が、多く社会的問題と深く関係しているのに、その解決手段は自然科学を背景とする技術しかないという、不平衡を認識することを契機として提起された課題である。例えば、地域紛争、テロリズム、地球環境破壊などは、社会的問題であり、社会的な手段によって解くことが求められているが、それを人類はうまく開発できず、失敗をくりかえしている。シミュレーションや報道などの情報技術によって、それらを緩和しようとするが、よい見通しがあるわけではない。紛争や環境破壊が結局は人類にとって損失なのだということを、すべての人類が理解し、その阻止に合意することができればよいが、それができない。

すべての人類が共通の理解を持つこと、それは科学である。科学は常に完全ではないが、その技術的適用によって(実験も技術である)修正を受ける開かれた体系である。したがって、今人類が抱えている諸問題を解決するためには、人間や社会についての体系的知識を背景とする技術を成立させ、それを適用することによるのは、一つの有力な方法である。その知識とは、社会科学である。

以上が、社会技術という概念を生み出した契機である。すなわち前述したように、まず社会科学が、科学として持つ無矛盾性と網羅性とに依拠する技術を社会への適用可能なものとして生み出す。しかし科学の不完全性により、その技術は利用者によって選択される「市場」を準備することも必要な条件である。」

別表1「中間評価委員会委員」

役職委員
(委員長) 吉川 弘之(独立行政法人産業技術総合研究所 理事長)
児玉 文雄(芝浦工業大学大学院工学マネジメント 研究科長/教授)
柴田 鉄治(国際基督教大学客員 教授)
鈴木 篤之(原子力安全委員会 委員)
冨浦 梓(株式会社日鉄技術情報センター 特別顧問)
平野 千博(文部科学省 科学技術政策研究所 総務研究官)

別表2「評価項目」

評価項注記*評価の内容(参考)
1.目標設定と進捗状況
1.1 目標設定の適切性 当初の目標設定/最終目標
1.2 進捗状況・目標達成度 当初の研究計画から見た進捗状況や達成度/今後の見込み
1.3 今後の取組方針
2 成果
2.1 (直接的)成果 研究を通じての新たな知見等の社会技術研究の成果の状況現状で成果が出ているか
今後生まれる成果はあるか
外部発表(論文、口頭発表)、特許、その他
2.2 成果の質 得られた研究成果の科学技術への貢献/科学技術の発展との整合性
2.3 人材育成 社会技術研究員(常勤研究員)の活用の効果
/社会技術研究員(常勤研究員)に対する支援及び独立性
2.4 アウトリーチ 社会技術の定着と普及/情報発信は十分か
/国民への十分な説明が出来ているか
2.5 社会技術としての期待される波及効果 得られた研究成果の「社会技術研究の技術的根拠/知識体系」構築への貢献とその発展との整合性
3 総合評価 今後の研究の進め方への判断を含む

別表3「検討経緯」

第1回:平成15年11月5日

  1. ミッション・プログラムI「安全性に係わる社会問題解決のための知識体系の構築」の概要について
  2. 中間評価の視点、評価項目等について
  3. ミッション・プログラムI「安全性に係わる社会問題解決のための知識体系の構築」に係るプログラム内評価の結果について

第2回:平成15年12月3日

  1. 原子力安全zJ研究グループにおける研究成果、進捗状況について
  2. 中間評価の視点、評価項目等について
  3. 医療安全研究グループにおける研究成果、進捗状況について
  4. 中間評価についての検討

第3回:平成16年1月15日

  1. 法システム研究グループにおける研究成果、進捗状況について
  2. 失敗学研究グループにおける研究成果、進捗状況について
  3. 中間評価についての検討

第1回研究課題別ヒアリング:平成16年1月29日

  1. 原子力安全zK研究グループにおける研究成果、進捗状況について
  2. 化学プロセス安全研究グループにおける研究成果、進捗状況について

第2回研究課題別ヒアリング:平成16年2月4日

  1. 社会心理学研究グループにおける研究成果、進捗状況について
  2. 交通安全研究サブグループにおける研究成果、進捗状況について

第4回:平成16年3月29日

  1. ミッション・プログラムI 中間評価報告書(案)について

ミッション・プログラムI 中間評価の結果について(PDF:771KB)


安全安心研究ユニット

研究ユニットの役割

安全安心研究ユニットは以下の目的のもとに設置されています。

  1. 安全安心に関わる諸研究プログラムの研究成果を俯瞰的に体系化し、行政支援に活かす
  2. 安全安心に関わる行政ニーズを把握し、諸研究プログラムの研究活動に活かす
  3. 安全安心に係わる行政支援の方法論を構築する

研究ユニットの活動

安全安心研究ユニットは、以下の活動を行います。

  1. 安心研究
    社会的安心に影響する因子の抽出や、安心に至るプロセスを研究することにより、安心のモデル化を行い、社会的安心に資する対策等を支援する
  2. シーズとニーズのマッチングに関する研究
    安全安心に関わる技術シーズと、行政ニーズのマッチングを行い、両者の対応付けに基づいて行政を支援する方法論を構築する
  3. 知のネットワーク構築に関する研究
    危機発生時に、対策に必要な専門家・専門的知見をいち早く探し出すためのネットワークを構築する
  4. 科学技術政策支援に関する研究
    安全保障という観点や、中長期的な観点から日本の安全安心の確保に向けた科学技術の開発や活用のあり方に関する研究を行う
  5. 社会システム間の相互依存性解析
    都市機能の相互依存性と災害時における被害の伝播や拡大について解析を行い、被害を軽減するための対策を支援する
  6. 緊急事態に関する情報提供に関する研究
    緊急事態に対して、安全安心をもたらす情報提供のあり方に関する実践的研究を行う

※安全安心情報基盤「ロンドン同時爆破テロ」に関する情報