【レポート】 「里海」をつくる -人と海の共生- 科学酒場(愛知県名古屋市)

愛知県名古屋市で開催された、「科学酒場」の様子をお届けします。





本企画は、「科学技術と人間」研究開発領域において、平成20年度より行っているアウトリーチ活動のひとつになります。様々な地域で行われているサイエンスカフェと連携をしながら、「一般の方」を対象に企画を立て、本領域で採択されている研究代表者やその協力者に話題提供を行っていただいています。また、研究に関与する若手研究者にも参画いただき、運営・レポートの作成等を手伝っていただいております。
今回は、平成20年度に採択された「海域環境再生(里海創生)社会システムの構築」(研究代表者:柳哲雄 (九州大学 応用力学研究所 所長/教授)で行っていらっしゃる研究の内容について話題提供をしていただきました。


今回の科学酒場inカルヴァドスでは、九州大学応用物理学研究所 所長の柳哲雄教授をお招きして「里海」についてお話いただきました。開始時間の5分前には、すでに会場のテーブル・カウンターともに満席となり、熱気があふれていました。参加者の多くは初対面ですが、彼らがひとつのテーブルに案内されるや否や、自然と乾杯や自己紹介が始まり、会場内はとても和やかな雰囲気に包まれました。

サイエンスカフェでは、ゲストの講演、その後ゲストと参加者との質疑応答という流れが一般的ですが、今回はゲストからのお話の最中に、参加者からの質問やコメントを自由に取り入れながら進行しました。
こうすることにより、場の空気を盛り上げたまま、話題をふくらませていくことができるのです。

さて、本日のテーマは「里海をつくる」です。
里海とは耳慣れない言葉だと思いますが、実は柳さんの造語です。
いまから10年ほど前、柳さんは日本各地の沿岸海域の荒廃ぶりを目の当たりにし、海の環境をどのようにして再生させるべきか、という課題に取り組んでいました。ちょうどその時に、里山という言葉に出会いました。里山とは、人間が定期的・規則的に手を加えることにより、生物多様性が保たれるようになった山の自然環境を指します。この里山の概念や手法を、海にも応用できないかと考え、柳さんはついに里海づくりを提唱するようになりました。この里海という言葉は、今や海外でも'Sato-umi'として、研究者の間に浸透しつつあります。

では、「里海をつくる」には、具体的にはどうすれば良いのでしょうか。柳さんは全国各地の海を調査し、ひとつの例を発見しました。九州から沖縄にかけて分布する石干見(魚垣、カチとも)です。海中に人工的に石垣をつくると、そこに藻などが付着し、隙間に魚が生息するようになり、多くの生物に新しい生息環境を提供することができるのです。この石干見の例のように、里海を実現するためには、生物多様性の源となる窒素やリンなどの物質を、大量に、途切れることなく海域に循環させ、その結果として多くの生物が食物連鎖で繋がるようにする必要があると、柳さんは考えます。現在は、各地の漁業関係者・行政機関と連携して、海域の藻場の再生(岡山県日生町)や、人工干潟におけるアサリ養殖の復活(三重県桑名市)、ガザミ資源保護(福岡県豊前海)など、さまざまな取り組みを行っています。また、このような取り組みにより増加した資源を守るために、漁業資源を厳しく管理する法律や、取り組みを維持する機構が必要であると、柳さんは考えています。

現在、里海づくりに携わっているのは漁業関係者です。しかし、人口の大多数を占める都市の住民が、この問題にもっと関心をはらうべきであると、柳さんは警鐘を鳴らしています。柳さんは、都市の住民を相手に、海をよく知り愛着を持ってもらうために、水辺での観察教室からゴミ回収運動まで幅広い環境教育を積極的に行っています。このような都市の住民への働きかけが実を結び、環境保全運動へと発展した例もある一方で、会場からはこうした活動の多くは採算がとれず、ボランティア活動の域にとどまり、継続に苦労しているとの報告や、こうした活動の経済性をより重視し、継続できる体制を構築すべき、という意見が出ました。そもそも都市の住民のエゴ(欲望)を抑えるにはどうすればよいのか、といった哲学的な話題にもふれつつ、議論は大いに盛り上がりました。

普段、柳さんは主に漁業関係者と話し合う機会が多いそうですが、今回のイベントでは、いつもとは異なる立場の方を対象に研究の話をしたことにより、ご自身の研究を客観的に振り返り、今後研究を進めるのに必要な要素に気付くことができたそうです。このように、参加者みなが主体的に議論でき、それぞれが新しい視点や知識を持ち帰ることができる点も、このイベントの魅力といえるでしょう。

読者のみなさん、この機会に身近な海に出かけ、海の環境問題を考えてみてはいかがでしょうか。

古屋絢子(東京大学公共政策大学院 特任研究員)
清水万由子(長野大学環境ツーリズム学部 研究員)

「科学酒場」について

「科学酒場」は「科学喫茶」も企画運営を行っているカフェシアンティフィーク名古屋が不定期に開催をしています。
活動はこちらをご覧ください。

過去の関連情報のお知らせ

平成20年度は、既存のサイエンスカフェと連携をして以下の企画も実施しております。レポートをご覧ください。

第54回 サイエンスカフェ神戸:「木質バイオマスってなぁに?」

第41回東北大学サイエンスカフェ スペシャル版:「うまくやってる?人とまちと科学技術と」