シンポジウム 『震災からの復興を「活力ある街・地域」創りにつなげる ~地域の「潜在力」を引き出す社会技術~』開催報告

シンポジウム 『震災からの復興を「活力ある街・地域」創りにつなげる ~地域の「潜在力」を引き出す社会技術~』の開催報告です。


日時:2011年8月4日(木) 10:00-16:30
会場:仙台国際センター 大会議室 萩(宮城県仙台市青葉区青葉山)
主催:(独)科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(RISTEX)

プログラム
まとめにかえて 及び シンポジウムで挙がった主なキーワード(461KB)


 東日本大震災から4ヵ月余りが経過し、被災地では復旧から復興に向け歩みが進められています。 復興にあたっては、震災前の状態への復旧に留まることなく、災害に対する強健性や市民生活・環境・財政面での持続可能性に十分な配慮をした「活力ある街・地域」の実現が求められます。
 そのためには、それぞれの地域が持つ潜在力を最大限引き出すことが肝要であり、この点で、地域 のニーズや期待を踏まえ、多様なステークホルダーと連携しつつ具体的な社会的問題の解決を目指す社会技 術の活用の取り組みは、有益な視点を提供するものと思われます。
 RISTEXは、さまざまな分野で被災地の復興・コミュニティ再生に取り組む専門家の方々に講演いた だくとともに、社会技術に期待されることについて、広く皆様の意見を伺いたいと考え、仙台でシン ポジウムを開催しました。
 七夕祭りの週末を目前に控えた8月4日、東北大学の川内キャンパスにほど近い「仙台国際センター」に、約150名の方にご来場いただきました。


会場の仙台国際センター


エントランスに吊るされた吹き流し


 RISTEXの有本建男センター長の開会挨拶の後、来賓として、奥山恵美子・仙台市長にご挨拶をいただきました。


来賓挨拶の奥山恵美子氏(仙台市長)

 奥山市長は、東日本大震災が多様な側面を持っていること、震災が引き金になって生じるさまざまな社会的事象があることに言及され、これらの課題を地域として解決していくためには、多方面の知恵が必要であり、これからの研究者の実践的取り組みが、被災地や被災者へ明日への希望をもたらす成果を生み出すことを大いに期待していると話されました。
 また、被災地・仙台の首長としてこれまでのさまざまな支援や取り組みに謝意を示されるとともに、今後、震災に関する研究成果が世界に発信され、社会の役に立つことを望むとのお話がありました。

 続いて林春男氏(京都大学防災研究所 巨大災害研究センター教授)と、永田潤子氏(大阪市立大 学大学院創造都市研究科 准教授)にご講演いただきました。



林春男氏(京都大学防災研究所 巨大災害研究センター 教授)

 林春男氏(京都大学防災研究所 巨大災害研究センター教授)は生活再建支援のために欠かせない被災者台帳の整備についてご紹介いただきました。
 さまざまな部局で同時並行的に実施される業務を整理・統合する被災者台帳は、平時の行政の縦割りのシステムから作成することは難しいため、林教授はGIS(地理情報システム)を活用して作成するシステムを開発しました。2007年の新潟県中越沖地震の際、柏崎市では被災者台帳を迅速に作成し、被災者の生活再建支援を迅速に実現。一人の被災者も取り残さない生活再建支援を行うことができたとのことです。
 現在は、このシステムを岩手県で、今回の震災の状況に合わせて使えるように整備しています。目下、岩手県沿岸部12市町村、内陸2市が対象ですが、林教授は同県全域、また宮城、福島両県にも拡げていきたいと考えています。このシステムの進化を進め、将来西日本等で発生する可能性が高いと考えられている巨大地震にも対応できるよう、全国で役に立つものとして展開していきたいとのことでした。



永田潤子氏(大阪市立大学大学院 創造都市研究科 准教授)

 永田潤子氏(大阪市立大学大学院創造都市研究科 准教授)には、関西広域連合の支援の取り組みについてお話を頂きました。
 現在、関西広域連合への支援要請は、まちづくり、土木といった専門職の長期派遣にシフトしているそうです。また実際の支援に当たり、通常の法律が壁を作り、妨げになることもしばしばあることが指摘され、復興推進の新たな枠組みとして、基礎自治体業務や県の災害復旧事業の代行や、緊急特例措置の導入が必要とのことでした。
 また、大阪市立大学の学生や教員などを中心に震災復興を考える研究会が作られているが、全国の類似の取り組みを繋ぐことも重要な「社会技術」であろうとのことでした。復興のアイデアを投稿し、これを政策立案のプロが評価し、政策担当者に届けるSNS(ソーシャルネットワークサービス)「復興のタネプロジェクト」等にも言及され、知恵やネットワークを繋ぐ重要性が強調されました。

 午前の部は第一セッションとして、RISTEXが行っている「東日本大震災対応・緊急 研究開発成果実装支援プログラム」の進捗・成果・課題について、報告が行われました。

 「東日本大震災対応・緊急 研究開発成果実装支援プログラム」は、災害復旧・復興に即効性のある研究開発成果を、被災地域に実装する取り組みです。5月から活動を開始した全6件のプロジェクトは、今年度中(11カ月間)で明確な成果を出すことが求められています。
 全てのプロジェクトが既に被災地でさまざまな活動を展開しています。シンポジウムでは4つのプロジェクトの報告がありました。

東日本大震災対応・緊急 研究開発成果実装支援プログラム資料(1493KB)



丹波史紀氏(福島大学行政政策学類 准教授)

 丹波史紀氏(福島大学行政政策学類 准教授)は、実装地域である福島県で建設されている応急仮設住宅の生活環境を改善するために、ハード・ソフト両面からさまざまなプログラムを展開しています。
 ハード面では実装対象約4000戸のうち3500戸が福島県産の木材を使用、プレハブと比べて結露や騒音対策などにも効果があるそうです。
 ソフト面では、入居後、孤独死を生まない支援体制の整備などを行っていく予定です。
 スライドで紹介された各地の木造仮設住宅の写真には驚きの声が上がっていました。



中井裕氏(東北大学大学院農学研究科 附属先端農学研究センター長・教授)

 中井裕氏(東北大学大学院農学研究科 附属先端農学研究センター長・教授)は、被災農家が農業を続けながら農地を修復することを支援するため、塩害に強い菜の花を、農地の塩分濃度に合わせて栽培する「菜の花プロジェクト」を展開しています。
 収穫されるナタネから生産される菜種油は灯油用、またはディーゼル燃料として利用し、復興に役立てる予定です。
 7月30日には仙台市内で、農地の上に5センチほど堆積したヘドロを、東京など遠方から参加したボランティアも含め、総勢100名ほどで取り除く作業が行われたとのことです。



原田英典氏(京都大学大学院 地球環境学堂 特定助教)

 「無水屎尿(しにょう)分離トイレの導入による被災地の衛生対策と災害に強い都市基盤の整備」(※)のプロジェクトメンバー、原田英典氏(京都大学大学院 地球環境学堂 特定助教)は、下水道システムが破壊された被災地に、水を使わずに尿と便を別々に回収する簡易トイレの導入を図っています。
 被災地での当面の簡易トイレの需要は、徐々に終息に向かっているようですが、このトイレの構造等について、会場から大きな関心が寄せられました。
 また、別室ではプラスチック段ボール製の屎尿分離トイレの展示を行い、さまざまな質問が寄せられました。
 ※実装責任者は清水芳久氏(京都大学大学院 工学研究科 教授)



大成博文氏(徳山工業高等専門学校 教授)

 大成博文氏(徳山工業高等専門学校 教授)は、大船渡湾で、湾の水質浄化と水産業の復興支援を目的として、髪の毛一本より細かい超微細な泡、マイクロバブルの特性を活かした活動を行っています。
 マイクロバブルは普通の泡とは異なり、水平方向に数百メートルにわたって拡散しながら1メートルを5時間かけてゆっくり上昇するうちに水に溶けます。水中に豊富な酸素と窒素が供給されるため、夏場の高温による赤潮や貝毒の発生を防ぎ、海中の環境改善に効果があります。
 このシンポジウムの前日の8月3日に、大船渡湾赤崎で、マイクロバブル発生装置104機が一斉に稼働を開始しました。毎日288立方メートルのマイクロバブルを発生させるいまだかつてない大規模な装置を用いて、かき養殖業の復興と湾全体の水質浄化をめざしています。



冨浦梓氏(「研究開発成果実装支援プログラム」プログラム総括)

 最後に「研究開発成果実装支援プログラム」の冨浦梓・プログラム総括が、第一セッションのまとめを行いました。
 ①今回の「東日本大震災対応・緊急 研究開発成果実装支援プログラム」の募集について、②応募いただいた124件のご提案の概要、③採択基準の紹介がありました。
 また、採択した6件のプロジェクトについては、今年度(2012年3月末まで)に、目に見えてわかる成果をまずは実装対象地で実現し、その後横(実装 対象地以外の被災地)にも広げて行くことが期待されていること、またこれらの緊急実装活動は成果の受け手となる社会の人々のご協力がなければ社会の役に立つ成果を十分に発揮することができないので、是非皆さまのご協力をお願いしたい、というお話がありました。

冨浦梓氏予稿スライド資料(205KB)


★第一セッションの質疑応答から★

 被災地での屎尿については、量の多さが大変な問題となっており、屎尿分離トイレはこれをどう解決できるのか、という質問がありました。
 原田氏から、「人間は、一日当たり1~1.5Lの尿と200~300gの便をする。有害なのは便なので、緊急時には便のみ処理を行い、尿はそのまま河川に流してしまっても問題はない。そのためにはやはり便と尿を別々に回収・処理することが必要となるので、屎尿分離トイレは有効と考えている」という回答がありました。


別室に展示された屎尿分離型トイレ



阿部博之氏(東北大学元総長/科学技術振興機構顧問)

 昼食をはさみ、午後の部を再開しました。第二セッションのテーマは「社会技術に求められること」。
 冒頭、阿部博之氏(東北大学元総長/科学技術振興機構顧問)に専門家の倫理と、復興の基本理念に関してご講演いただきました。
 科学者・技術者は、組織内の空気に左右されず、自らの専門的な立場から警告を発する倫理観が求められること、また、原発の安全性等について科学者が統一した声を社会に発信することの大切さについてお話がありました。
 今後の復興は、歴史の評価に耐え、世界の共感を得るものとなるべきであり、具体的には東北地方の被災が海外での生産活動にも支障を与えたことを教訓に、安全保障面からも東京一極集中からの脱却が必要であること、また政府の震災対応が必ずしも迅速でないことから、日本の民主主義のあり方についても再考が必要ではないか、との問題提起がありました。

 次に、「復興ビジョンと広域連携システム」をテーマに、3名の先生にご講演いただきました。
 鈴木浩氏(福島大学名誉教授)から福島県の復興ビジョンについて、植田眞弘氏(岩手県立大学 宮古短期大学部長)から被災地の大学としての復興支援について、石川幹子氏(東京大学大学院教授)から広域連携の可能性について興味深いお話がありました。



鈴木浩氏(福島大学名誉教授/福島県復興ビジョン検討委員会座長)

 鈴木浩氏(福島大学名誉教授/福島県復興ビジョン検討委員会座長)は福島の復興ビジョンの理念と施策について発表されました。東日本大震災は経済的低迷、政治的混迷、社会的不安といった特別な時代潮流の中で発生し、福島は原発事故をきっかけに人口流出、産業の縮退、就職雇用の喪失など「縮んでしまった」と指摘。福島の復興は原発との向き合い方を考慮せずには語れないこと、「ふくしまを愛し、心を寄せる全ての人々の力を結集した復興」が大切であること、子どもたちが誇りを持てるような地域コミュニティ再生のためのプログラム開発などについてお話がありました。また復興ビジョンの施策として、福島は特に避難生活が長期にわたることが想定されるため、二次災害などに合わないような配慮や心のケアが大きな課題であることを強調されました。
 さらに大震災にしなやかに立ち向かうために、地震・津波予知技術、避難技術の向上といった防災対策だけでなく、被災者に寄り添う目線を大切にし、自然再生エネルギーの活用、地域循環型のサプライチェーンを実現させるためのコンパクトシティの構築についても言及されました。
 最後に、古代ギリシャのアテネ人が新たに市民になる際の誓約「私たちは、この都市を、私たちが引き継いだ時よりも、損なうことなく、より偉大に、より良く、そしてより美しくして、次世代に残します」という言葉を紹介されました。



植田眞弘氏(岩手県立大学宮古短期大学部長/同大学地域政策研究センター復興研究部門長/岩手県東日本大震災津波復興委員会委員)

 植田眞弘氏(岩手県立大学 宮古短期大学部長/同大学地域政策研究センター復興研究部門長/岩手県東日本大震災津波復興委員会委員)からは、被災県の大学として行っているさまざまな活動と産業復興のシナリオについてご紹介頂きました。
 岩手県立大学では4月に「災害復興支援センター」と「地域政策研究センター」を設置、被災地のニーズに応じた専門性を持つ教職員を各地に派遣したり、復興研究を進めています。同大学の小川晃子教授が中心になって進めている、ICTによる一人暮らしのお年寄りの安否確認システムも支援の一環として活用しており、今後は仮設住宅における孤独死の防止やコミュニティ再構築にも役立てていくそうです。
 また産業の復興については、震災前に「戻す」のではなく「新生」を目標とした計画策定がが必要であること、また水産業の強い地域では水産業を核とした水産加工業の"再編"を、水産業の復興が困難な地域では雇用吸収力の高い製造業の立地を中心とした"ものづくり産業"の新規立地を考えるべきであり、このために、地元にて人材育成を中心とした受け入れ体制を整備することが重要であるとのご提言がありました。



石川幹子氏(東京大学大学院 工学系研究科 教授/宮城県震災復興会議委員/宮城県岩沼市復興会議議長)

 石川幹子氏(東京大学大学院 工学系研究科 教授/宮城県震災復興会議委員/宮城県岩沼市復興会議議長)は、2008年5月に発生した中国・四川大地震の際の支援経験や、宮城県や岩沼市での復興会議の議論から復興に関する考えを紹介されました。
 中国は、震災後世界から復興のグランドデザインを公募、都市部はコンパクトシティーに、農村部は伝統を尊重した永久文化農村に、という計画のもと、3年という短期間で復興を完了しました。さまざまな支援策のなかで、被災した地域と被災していない地域が一対一で連携し顔の見える持続的支援を実施する「対口(ペアリング)支援」は特に有効とのことでした。
 また、具体的な計画(誰が、どのように、いつまでに、いくらで)を明確にするために、文章だけでなく図面に落とすことが重要であると強調されました。
 さらに今般のような想定外の規模の震災にも耐えうる「多重防御」などの考え方を紹介、復興計画は被災地の住民が自力で考えることが第一歩で、シンプルで解りやすい計画を着実に実施していくことが肝要であるとのお話でした。

 続いて「ロバスト(強健)かつサステナブルな地域コミュニティ・産業の復興・構築」をテーマに、2名の先生にご講演いただきました。



小林悦夫氏(財団法人ひょうご環境創造協会 顧問)

 小林悦夫氏(財団法人ひょうご環境創造協会顧問)からは、「里海創生」概念を反映した震災復興についてのお話がありました。
 今回の震災で、水産業の被害は約1兆2300億円であり、復興まで10年以上の期間が見込まれているそうです。また海底には大量のがれきが堆積し、わずかに残った漁船の航行にも支障を来たしている状況だそうです。
 小林氏は、里海活動を通じた(1)民間参入を促す「水産業特区」の提案に対する問題提起、(2)カキ養殖等に係る多栄養段階生物同時養殖を提案、また、津波防止対策についても専門的知見を踏まえた提案がなされました。
 また、兵庫県庁在職時に阪神・淡路大震災が発生、行政職員として復興に当たられた経験をもとに、住民主導のまちづくり、100年先を見通した「尼崎21世紀の森」構想についてのご紹介がありました。



佐藤哲氏(長野大学環境ツーリズム学部 教授)

 佐藤哲氏(長野大学環境ツーリズム学部教授/RISTEX 研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」プロジェクト代表者)からは、震災からの復興、さらにはその先の地域におけるビジョンを描くにあたっては、科学的知識を地域のために活かす役割を果たすレジデント型研究者の活躍と、従来のインフラを含む巨大システムのセイフティネットとしての地域生態系サービスの活用が重要であることが示されました。
 レジデント型の研究者とは、地域目線で震災経験を地域と共有し、外からなされるさまざまな提案に対して、地域の現状に合わせて提案を再構築でき、また、地域の在来のシステムや伝統的な知恵を科学者コミュニティーに翻訳し再提案できる双方向の繋ぎ役が出来る研究者のことです。職業研究者のみならず、さまざまな立場の人がレジデント型研究者の役割を果たし得るため、重要なのはこの様な人材をどう発掘し育成するかであるとのお話でした。

 休憩をはさみ、総括セッション(パネルディスカッション)となりました。パネリストは、「復興ビジョンと広域連携システム」に登壇いただいた鈴木浩氏、植田眞弘氏、石川幹子氏に加え、堀尾正靱氏(龍谷大学政策学部教授/RISTEX「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」領域総括)、目黒公郎氏(東京大学生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター長・教授)の5名、モデレーターは社会技術研究開発センターの有本建男センター長が務めました。
 まず、堀尾氏と目黒氏から話題提供・問題提起をいただきました。



堀尾正靱氏(龍谷大学政策学部教授/RISTEX「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」領域総括)

 堀尾正靱氏(龍谷大学政策学部教授/RISTEX「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」研究開発領域総括)は、「地域に根ざす」という視点と今回の震災の問題は密接な関係がある、という観点からお話がありました。
 東京一極集中の危険性も踏まえて、再生可能エネルギー利用の地産地消的なあり方も考えられること、それを前提として都会から地方に人口を戻すことも十分にありうることなどが示されました。
 また再生可能エネルギー利用のためには、特に実務家人材の育成が重要であり、事業に必要な地域資金を引き出す実務を担える人材の必要性について 問題提起がありました。これまで事業として成立していないバイオマスにおける取り組みや、風力発電を中心としたポテンシャル評価の甘さなどへの批判的視点から、社会的な合意形成や経済的に事業として成立すること、地域に実利があることなどを踏まえた、現実的なポテンシャルの算定やビジョンの作成の重要性についてお話がありました。



目黒公郎氏(東京大学生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター長・教授)

 目黒公郎氏は「長期的な街づくり・都市づくり」という視点から、被災地が広範囲にわたる今回の震災では、従来の災害対策基本法の範囲を超え、新しい枠組みの下、復興に当たる必要があるとの認識を示しました。
 目指すべきは将来の繁栄の礎となる創造的復興であり、高齢化・低環境負荷社会等を先取りして考え、政府、自治体、企業等と被災地の人々が連携することが重要とのことです。
 また、これまで行ってきた防災対策・防災教育について批判の声も多い中、客観的に見れば防波堤などは津波被害の規模縮小に寄与し、震災の規模から見れば死亡者数も若者を中心に少ないと考えられることから、一定の成果を評価すべきとのお話もありました。
 技術と制度を組み合わせ、長期的視点から納税者に説明責任を果たせる街づくりを進めるべきことが強調され、現在議論されている既存不適格建物の建替と耐震改修を促進させる仕組み作りに関しても「公助」を基本とするのではなく、公助・共助・自助を総合的に組み立て、新たな視点から有効な対策を作るべきであるという提案がなされました。



会場の様子

 続いてパネルディスカッションが行われました。
 復興計画は文章だけではなく、具体的な行動に移すために図面等による可視化が大切であること、復興の中でのコミュニティや地域の再生・新生の重要性、漁業や農業の大規模化の影で広がる地域間格差の問題などについての指摘がなされました。
また、復興に当たっては、技術と制度を組み合わせたハード、ソフト両面からのアプローチが有効であること、さらには、今回の震災を契機に、再生可能エネルギーの利用検討を含めて近代を作り直す必要があるなど、示唆に富んだ活発な議論が交わされました。


モデレーターを務めた有本建男・社会技術研究開発センター長

左からパネリストの鈴木氏、植田氏、石川氏、堀尾氏、目黒氏。活発な議論が交わされた

 会場の皆さまからも、復興の中での人材育成・科学者教育についてや、地域からの復興の難しさ、情報伝達・科学コミュニケーションの大切さなど、多数のご質問・コメントが寄せられました。

 パネルディスカッション終了後、斎藤尚樹・社会技術研究開発センター企画運営室室長の閉会挨拶によりシンポジウムの幕が閉じました。
  ご来場いただいた皆さまには、長時間、本当にありがとうございました。

まとめにかえて~参加者の皆様からいただいたコンセプト・概念・アイディアを紹介します。
  • 将来の礎となる復興(新生)をめざし、歴史の評価に堪え、世界の共感を得る。
  • 復興にあたっては人のいのち・心を守り尊重することを第一とし、コミュニティの特色に配慮した生活再建と生活の質の向上などをめざす。
  • 地域・組織・分野などのさまざまな境界を超え、知やネットワークをつなぎ、広域連携、対口(ペアリング)支援などの方法を総動員し復興にあたる。
  • 復興をなすにはグランドデザインを持ち、住民参加で現実的な計画を策定・可視化し、着実に実行する。
  • ソフト・ハード両面から技術と制度を組み合わせ、新たな思考に基づいた公助・共助・自助の仕組みを構築し、ロバスト・レジリエント・サステナブルな社会・街づくりにつなげ、全国、世界に還元する。
モデレーター・有本建男・社会技術研究開発センター長より

 東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈りしますと同時に、被災され大変なご苦労をされている方々に心からのお見舞いを申し上げます。
 今回のシンポジウムは、震災復興における「社会技術」の役割を考えるために企画したものです。復興に科学技術は欠かせませんが、津波による大災害や原発事故への対応などから、「科学技術は今までいったい何をしてきたのか」と国民の方々は非常に厳しい見方をされています。また、未曽有の大災害を日本がどう克服していくのか、日本の科学とその仕組みがどう変わっていくのかについて、世界も注目しています。復興にあたり、次の世代に託すための強健で持続可能な地域コミュニティを創るために、科学や知識をそれぞれの地域で、伝統や歴史や文化に見合った形で活かしていくことが大切です。
 本日お話をいただいた方々は、みなさん震災直後から被災地に入られ、現場で求められていることを的確に把握したうえで、研究成果を地域に実装し、さらにはより大きな地域に展開していくことに大変な努力をなさっておられる、現場主義の方ばかりです。さまざまな立場や経験からの幅広い示唆をいただきましたし、午後のパネルディスカッションも大変実りの多い議論ができたと思います。
 震災復興には「境界を超える」ことが大切だと私は考えます。分野を超え、事業を超え、組織を超え、年代・世代を超え、国境を越えていくことで、復興へ向けて新しい価値を見出していくことが一つのキーワードになるのではないでしょうか。
 まる一日の長丁場で、ご来場いただいた方々も大変お疲れになったと思います。このシンポジウムで得た新しい発想について是非周囲の方々と議論を広げていただければ幸いです。どうもありがとうございました。

モデレーター 有本建男・社会技術研究開発センター長

シンポジウムのまとめ及び論点キーワード(461KB)

ご来場いただいた方のご感想を一部ご紹介します(一部抜粋、修正あり)。
  • 今、日本の文化力が試されていると思う。日本の復興のためにがんばりましょう!
  • こういった取り組みは科学技術と社会との接点づくりの観点で有意義である。
  • 各被災地での復興に貢献できるようにJSTに広域展開もサポートしていただきたい。
  • 即効性・効果性のあるプロジェクトであり、参考になる。課題、現状、情報共有、各組織・チームの活動等、震災対応の全体像が把握し易い取り組みも含まれると、一層良い。
  • 政治的に提言したことが反映できなければ効果が乏しいことを考えると、これらの課題が政治家に反映できる仕組みづくりが大事かと思う。
  • 短期間でどこまでアウトプットを出せるのか、課題も残ると思うが、成果を期待したい。
  • 是非「点」から「線」「面」へ拡げていただきたい。
  • 日本の研究者が総力をあげて取り組んでほしい課題ばかり。予算面も含めて充分措置されるようお願いしたい。
  • 福島県の復興ビジョンについて発表された鈴木先生が紹介したアテネ人の言葉(「私たちは、この都市を、私たちが引き継いだ時よりも、損なうことなく、より偉大に、より良く、そしてより美しくして、次世代に残します」)は素晴らしい。今回の復興においても次の世代に誇りを持って渡すことができる街づくりができるとよいと願う。
  • 長期的視野からの定量的根拠を示すことができる提案が少ない。
  • 震災対応緊急実装支援の採択プロジェクト数をもっと増やしてほしい。


別室では「東日本大震災対応・緊急 研究開発成果実装支援プログラム」の全6プロジェクトの活動紹介展示が行われました。今回ご登壇いただいたプロジェクトの他、「震災地域の重金属等土壌汚染評価」実装責任者・土屋範芳氏(東北大学大学院環境科学研究科 教授)、「東日本大震災被災者と救援支援者における疲労の適正評価と疾病予防への支援」実装責任者・吉田俊子氏(宮城大学 看護学部 学部長/教授)の展示も行われ、実演もあり、皆さま熱心に説明を受けられていました。