「脳科学と社会」研究開発領域の成果

「脳科学と社会」研究開発領域

 「脳科学と社会」研究開発領域(領域総括:小泉英明<株式会社日立製作所・役員待遇フェロー>)は、平成21年度で9年間にわたる活動を終了しました。
 領域は①非侵襲的脳機能計測および行動学的観察を組み込んだ追跡研究(コホート調査)を行い子どもの社会能力の獲得過程や神経基盤について明らかにした計画型研究開発と、②発達関連の多様な課題に対して自然科学と人文・社会科学を架橋・融合した視点から取り組むことで教育関連の問題の根幹に迫ることを目指した研究開発プログラム「脳科学と教育」(タイプⅠ:全11プロジェクト、タイプⅡ:全6プロジェクト)を実施しました。

「脳科学と社会」研究開発領域  計画型研究開発「日本における子供の認知・行動発達に影響を与える要因の解明」

研究統括:山縣然太朗(山梨大学大学院 教授)※当時

研究開発期間:平成16年度~平成20年度

研究の概要:
 子どもを取り巻くさまざまな環境が心身の発達や言葉の発達に与える影響や、その脳科学的基盤を明らかにしながら、子どもたちの社会性(相手の気持ちがわかり、相手の立場にたち、良好なコミュニケーションをとり、円滑に社会生活をおくることができる)を身につけていくのかを、脳科学、小児科学、心理学、教育学、疫学、統計学などの領域を架橋して解明する研究を5年間にわたり実施しました。

研究の成果:
 脳科学や心理学の基礎的な知見に加え、親子関係の重要性、ほめることの重要性が科学的に証明されました。また、いくつかの社会性を測定する方法も開発しました。

現在の状況:
 研究終了後、研究に携わったメンバーでJCS委員会を組織し、さらなる詳細なデータの解析と論文化、今後の同様な研究に寄与するために実施して得た貴重な体験をまとめた実践記録集の出版、他の研究者とこの貴重なデータを共有できるようなデータのアーカイブ化の検討を行っています。

「脳科学と社会」研究開発領域  研究開発プログラム「脳科学と教育」

【発達研究】双生児のコホート研究により遺伝と環境の総体的な影響を明らかに

研究開発プロジェクト名: 「双生児法による乳児・幼児の発育縦断研究」
研究代表者:安藤寿康(慶應義塾大学文学部 教授) ※終了当時


遺伝子と環境がこころと行動の発達に及ぼす
影響を双生児法により解明

研究開発期間:平成16年度~平成21年度

研究の概要:
 人間の心身の発達は、遺伝子だけでなくたくさんの環境の影響も受けています。この遺伝と環境の総体的な影響を明らかにできるのが双生児法です。
 この研究開発プロジェクトは、主に2005年に首都圏で生まれた双生児のうち約1700組の協力を得て、アンケートや個別面接調査、そして光トポグラフィーによる調査などによって、心身の発達過程を5年間にわたり縦断的に調査しました。

研究の成果:
 こども一人一人が持つ気質や運動能力、認知・言語能力、問題行動などが、遺伝、家族が共有する環境、一人一人に独自な非共有環境から、発達過程のどの時点で、それぞれどの程度の影響を受けているかがわかりました。今後、子どもの健やかな発達を支えるための教育環境を考える上での基礎情報として広く役立つことが期待されます。

現在の状況:
 科学技術研究費(基盤研究S)を得て縦断研究を継続しています。コホートが幼稚園から小学校にあがる時期に当たるので、新しい環境に遺伝的資質がどのように適応するかを解明するため、特にこの年齢に適切な「環境指標」の開発を進めています。

【発達障害者支援】社会的発達に困難を持つ子どもたちを早期に発見・支援するシステムを開発

研究開発プロジェクト名: 「社会性の発達メカニズムの解明:自閉症スペクトラムと定型発達のコホート研究」
研究代表者:神尾陽子(国立精神・神経センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健部 部長) ※終了当時

研究開発期間:平成16年度~平成21年度


平均的な発達の幼児の社会性の発達を評価するために、遊びを中心とする行動観察をしている場面です。社会性の芽生えである模倣行動が観察されています。

研究の概要:
 幼児期の発達に一見問題の目立たない自閉症スペクトラムの人々はこれまで社会から支援の対象となっていませんでしたが、今日、思春期以降に抱える心の問題が社会化しています。自閉症スペクトラムの早期徴候のある子どもを、診断が確定する前に早く発見し適切な支援を行うことは、子どもの社会的発達を促し、本人やその家族、そして社会にとって大きなメリットとなります。
 この研究開発プロジェクトでは、「社会性」の発達メカニズムの解明を目的に、社会的障害を主症状とする自閉症スペクトラムと定型発達について、ある自治体の乳幼児健診と連携して、地域の子どもたちを対象に5年間にわたるコホート研究を行いました。

研究の成果:
 日本における自閉症スペクトラムの人々の発達研究に関し、重要な基礎的データの蓄積が成されました。学術的貢献としては、自閉症スペクトラムと定型発達にかかわる乳幼児期からの行動および脳のデータベースの構築等が、社会的貢献としては、自閉症スペクトラムの超早期診断や早期介入法の開発、かかりつけ小児科医のためのリーフレットの作成と自治体や小児医会への配布等、多くの成果が得られました。

現在の状況:
 本研究で確立した社会的発達に困難を持つ子どもたちの早期発見の方法論は、今、日本の複数の自治体の乳幼児健診システムに取り入れられ、地域の子どもたちへの発達支援および家族への育児支援に活かされています。今後も、多くの自治体での地域の発達ケアを向上させるために、さらに改良を進めるべく、研究を継続しています。

【高齢者等の脳機能改善】健常な高齢者の生活の質を高め、脳機能を改善する適切な生活介入方法を開発

研究開発プロジェクト名「高齢者と学習障害の脳機能改善コホート研究」
研究代表者:川島隆太(東北大学加齢医学研究所 教授) ※終了当時

研究開発期間:平成16年度~平成21年度

研究の概要:
 健常な高齢者の心身の健康を維持・向上させ、日々の生活をよりイキイキと楽しむことができるようになるための日常生活上の工夫を明らかにするために、健常高齢者の脳機能の加齢に関するコホート研究を行い、痴呆予防方法等の開発や、医療費や介護保険などの社会保障費の低減を可能とする少子高齢化社会に対する前向きの対応策を提言しました。
 同時に、学習障害を持つ子どもたちを対象とした認知発達障害に関するコホート研究も行いました。学習障害の子どもたちの脳機能や認知機能と生活習慣などの関係を調査し、学習障害の発症機序の解明および学習障害の改善に有効な介入方法を見つけ出し、これを生活の中で積極的に行うことで認知発達障害児の健やかで心豊かな脳機能発達を促す方法の開発を行いました。


高齢者を対象にした健康教室
小学校の空き教室などを利用し、地域の高齢者が週に1日集い、読み書き計算ドリルを用いた認知刺激を行いました。また毎日の生活介入として自宅でも同様の取り組みを行いました。

研究の成果:
 地域社会で在宅生活を健常に行っている65歳以上の一般高齢者500名以上を対象に、まず認知テストによる脳機能計測と日常生活習慣の調査から基礎データを把握した後、心身の健康の維持・向上のための生活介入を行う場合と行わない場合で、半年後の変化を調べました。すると生活介入による脳機能改善が明らかに認められ、特に軽度認知障害の疑いがあった人のうち、66.1%の人が正常範囲に戻るという結果が得られました。開発した介入方法は、284の自治体で利用されています。
 また、のべ1094名の障害児と4287名の健常児のコホ―ト調査を行った。調査は、アンケートによる日常生活習慣に関する調査と、認知機能検査を行った。それらの縦断的調査結果の解析から、学習障害児の認知機能発達が、休日における親子関係性と相関があること、健常児においては、食事や睡眠といった生活習慣、それに親子関係が、認知機能全般の発達に影響を与えることが示唆された。これらの成果は、全国教育委員会での子どもの基本的生活習慣改善啓発運動に利用されています。

現在の状況:
 この研究開発で提案した高齢者の認知症予防法は、09年末で全国約300の地方自治体で採用され、5300名の高齢者が利用しています。また、子どものコホート調査結果は、文部科学省「子どもの生活習慣づくり」普及啓発手法検討会議で活用されています。

【外国語学習と脳の関わり】子どもの外国語(非母語)習得における脳のメカニズムを科学的に検証

研究開発プロジェクト名「言語の発達・脳の成長・言語教育に関する統合的研究」
研究代表者:萩原裕子(首都大学東京大学院人文科学研究科 教授) ※終了当時

研究開発期間:平成16年度~平成21年度


小学生の脳波:1年目の英語テストの成績によりグループを3つに分けて、それぞれのグループの1年目と3年目の脳反応の変化をみました。あまり上達しないグループに比べて、上達したグループでは規則的な変化が見られ、英語が上達すればするほど、母語の脳反応に似たパターンを示すことが分かりました。

研究の概要:
 母語獲得、第二言語学習(英語学習)にかかわる脳内神経基盤の解明を目指し、世界初となる「小学生大規模コホート調査」を実施しました。ヒトの脳はどのように言葉を処理しているのか、言葉の発達と脳の成長とはいかなる関係があるのか、母語と非母語では脳内処理が異なるのか、英語学習は早く始めた方がよいのかなどの問題を科学的に検証しました。

研究の成果:
 地方自治体の教育委員会と連携して、小学生の英語活動の効果を調べるために、約400名を対象に3年間にわたる追跡調査を行いました。脳科学の視点から、子どもの母語獲得のメカニズムや、非母語習得のメカニズムについて興味深いデータが得られました。例えば、英語は上達するにつれて母語の脳反応に似てくること、知っている単語は左脳で、あまり知らない単語は右脳で処理していること、小学生では単語の処理スピードが上がる時期があること、などが分かりました。
 今後、子どもの健やかな発達を支えるための教育環境を考える上での基礎情報として広く役立つことが期待されます。

現在の状況:
 英語が上手になるためには、学び始める年齢と費やした時間数のどちらが大切か、男の子と女の子では外国語の学び方に違いがあるのか、など様々な角度から分析を進めています。

平成23年1月、この成果が国際科学誌 「Neuropsychologia (ニューロサイコロジア)」のオンライン版で公開されました。
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平成23年2月、この成果が米国科学誌「Cerebral Cortex (大脳皮質)」のオンライン版で公開されました。
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【心の疾患予防】大学生の心の疾患を予防する技術を開発

研究開発プロジェクト名「教育支援のためのバイオメンタル技術の開発」
研究代表者:六反一仁(徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 教授) ※終了当時

研究開発期間:平成16年度~平成21年度


 本研究成果をもとに、岐阜県の民会病院勤務者(129名)を対象に行ったストレス検診の報告書を示した。うつ病(22名)、病的疲労(7名)、及び自閉症傾向(7名)を診断した。

研究の概要:
 心の疾患を持つ大学生の増加が問題となっているが、大学生の心の脆弱化の背景には、生来の素因に加え、養育環境やストレスなどの問題があります。
 そこでこの研究開発プロジェクトでは、大学生377名を対象にコホート調査を行い、大学生の心の疾患発症の原因となる生物学的危険因子及び環境リスク要因を抽出し、養育・教育環境を改善するための指標を明らかにし、教育現場における心の健康を推進する新たな予防社会技術システムの構築を目指しました。

研究の成果:
 コホート研究により、大学生の心の疾患に対する深刻な現状を認識し、養育環境が大学生の心理・行動に与える影響を明らかにしました。
 技術的には、精度の高い慢性疲労症候群鑑別診断PCRアレイの開発、自閉症に特有の遺伝子発現パターンの発見、ストレス評価用DNAチップの応用、非侵襲ストレス評価法の開発、RNAマーカーの探索開始などの成果が得られました。また、うつ病及び慢性疲労症候群のマーカー遺伝子の臨床応用、包括的ストレス評価技術の応用、サイトカインを用いたストレス・うつ病診断など、実用化に向けての取り組みも行われています。

現在の状況:
 この研究成果をもとに、質問紙、唾液ホルモン、サイトカイン、遺伝子発現を組み合わせ、心の疾患の予知・予防のための新しい包括的なストレス検診システムを立ち上げました。さらに、個々の評価を簡便、高精度、かつ安価な技術へ進化させています。

【学習意欲向上】小中学生の学習意欲と疲労の脳内機序の関係を科学的に明らかにし、学習意欲向上のための対策や学習意欲低下の早期発見・早期予防の対策を提言

研究開発プロジェクト名「非侵襲的脳機能計測を用いた意欲の脳内機序と学習効率に関するコホート研究」
研究代表者:渡辺恭良(独立行政法人理化学研究所 分子イメージング科学研究センター センター長 大阪市立大学大学院医学研究科 教授)※終了当時

研究開発期間:平成16年度~平成21年度


「非侵襲的脳機能計測を用いた意欲の脳内機序と学習効率に関するコホート研究」の研究成果

研究の概要:
 学習の効率には意欲が反映され、疲労度と表裏一体に意欲低下が起こります。また、完成の喜びや報酬(良い成績、高い評価)の期待により疲労感が修飾を受けて意欲が勝る局面があることも事実です。高い効率の学習の模索、学習障害の機序解明には、この意欲-疲労-報酬-学習の4態問題は避けて通れません。
 この研究開発プロジェクトは、fMRI等の非侵襲的脳機能計測法を駆使して、学習意欲の脳機構、学習・知的作業による疲労と意欲の同時計測、学習成立の脳機構と意欲との関連、学習意欲障害に関する遺伝的・環境的要因の研究を追跡的研究手法と組み合わせて行い、実際の学習現場における種々の学習意欲向上プログラムの開発を目指しました。

研究の成果:
 「学習意欲低下」という社会的問題に、アンケート調査、行動計測、脳機能イメージングなどの手法を活用して取り組み、学習意欲低下児の評価・スクリーニング法の確立、学習意欲に関連する報酬系の脳座位の特定、注意配分機能の重要性の発見、生活習慣(特に睡眠・朝食)と家族関係、学習意欲低下の予測因子としての中一ギャップの存在、さらにこれらを総合した学習意欲低下予防策の提言などを行いました。

現在の状況:
 この研究の成果をより多くの方々に知っていただくため、教育現場での講演、学会、Webなどでの活動などを積極的に行うとともに、「学習意欲低下」早期発見・予防のための大規模実証研究の提案を進めています。また一方で、「学習意欲」の脳科学をさらに深く探究しています。

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