「科学技術と人間」研究開発領域  研究開発プログラム「21世紀の科学技術リテラシー」の成果

「科学技術と人間」研究開発領域  研究開発プログラム「21世紀の科学技術リテラシー」

【研究開発プログラム実施期間】平成17年度~平成21年度の4年間

 科学技術が複雑に、より高度化する中、科学技術の進歩に関わる専門家と一般市民の知識レベルは開いていく一方です。また、専門家は自分たちの研究成果が一般社会に直接大きな影響を与えるというまったく新しい「事態」に慣れておらず、戸惑いを隠せません。しかしながらこの「事態」に対応する科学技術の知識を養うには、これまでの理科教育や啓蒙活動では対応しきれないことも明らかです。
 そこでRISTEXの「科学技術と人間」研究開発領域では、科学技術に関わる人々が、「社会リテラシー」も含め、誰のリテラシーを誰のために向上するのかを明確にしつつ具体的に探り、提言し実行することを目的に、平成17年度に研究開発プログラム「21世紀の科学技術リテラシー」を開始し、全10件の研究開発プロジェクトを採択、今年度で全ての研究開発プロジェクトがそれぞれ3年間の活動を終了しました。

【科学技術教育】青少年の科学技術への関心を向上させる手法と教材の開発


リテラシー向上のための現在の取組み

研究開発プロジェクト名「先端研究者による青少年の科学技術リテラシーの向上」
研究代表者:大島まり(東京大学大学院情報学環 兼 生産技術研究所 教授) ※終了当時

研究開発期間:平成18年度~平成21年度

研究の概要:
 最新の科学技術成果を結集した機器の利用とそれを支える科学技術の概念や法則の不理解といった、いわゆる"科学技術のブラックボックス化"が問題となっています。
 この研究開発プロジェクトでは、青少年(中学生・高校生)を対象に、身近な工学技術を具体的な例を用いて紐解き、社会における科学技術の役割を伝えることを目的として、研究者によるアウトリーチ活動のシステム構築を行いました。

研究の成果:
 ロボットやデジカメなど身近な科学技術をテーマに、出張授業を中学・高校で実施。出張授業のプロトタイプ開発・教材開発を行うとともに、理科好きではない生徒を対象に通常の理科の授業で使用できる貸出教材とマニュアルを開発するなど、様々な試みの手法の開発および評価を行いました。今後、多くの研究者がアウトリーチ活動を活発に展開するとき、本プロジェクトの開発した手法や教材は、社会全体の科学技術リテラシーの向上に大きく役立つことが期待されます。


出張授業

現在の状況:
 プロジェクトで開発した出張授業および貸出教材の手法は、継続して開発しています。また、リテラシー向上のために行ってきた活動を、右図に示されているように全体として統合化していく試みを行っています。特に、タイプAとして発展的なレベルを目指した質的向上(ある程度の知識・興味を持つ人々・次世代研究者育成)とタイプBとして興味・関心の促進(一般の人々)と分けて、また年齢の発達に応じてどのようなアウトリーチ活動を行っていくかについて検討し、効果的な活動となるように研究を行っています。

 プロジェクトの成果を生かして出張授業については、新たなテーマに基づいて開発を進めています。右写真は本研究所の岡部徹教授による「レアメタルってなんだろう」を埼玉県立高校で行った様子を示しています。

【科学技術教育】大学生の「対話力」を中心とした科学コミュニケーション能力向上のためのプログラムを開発

研究開発プロジェクト名「自律型対話プログラムによる科学技術リテラシーの育成」
研究代表者:大塚裕子(財団法人計量計画研究所 言語・行動研究室 主任研究員) ※終了当時

研究開発期間:平成18年度~平成21年度


自律型対話プログラムにおけるディスカッション練習の流れ

研究の概要:
 科学技術の分野における社会的な問題の解決や意思決定に参加するためには、「座学」で得る知識だけでなく、話し合いの場で話の内容を理解し、問題を発見・共有し、積極的に質問する能力、わかりやすく説明する能力などが必要です。
 この研究開発プロジェクトでは、大学生の「対話力」を中心としたコミュニケーション能力を高めることを目的として、ファシリテーターなどの支援者がいなくても当事者が直接話し合い、問題を解決する「自律型」の対話ができる学生を育成するための大学の授業「自律型対話プログラム」の研究開発を行いました。

研究の成果:
 大学生を対象に、「トランスサイエンス」をテーマに半期15回分のワークショップ型の授業プログラムを設計、複数の大学で3年間にわたり実践しました。また、授業シラバス、教材、授業設計のための事例集、教員用マニュアル、評価項目リストなどを作成、どこの大学でも実践できるようパッケージ化しました。
 また、本授業プログラムによる芝浦工業大学での教育実践が評価され、関東工学教育協会賞を受賞するとともに、研究成果を発表した論文が第14回交通工学研究会技術賞、および平成22年度日本工学教育協会賞を受賞しました。
 交通工学研究会技術賞は、対話を重視した交通計画技術の教育に関する新しい取り組みおよびその効果に関する報告に対し、近隣住民を招いての発表等が評価されました。
 また、日本工学教育協会工学教育賞は、関東工学教育協会の推薦を受け、芝浦工業大学での自律型対話プログラムに基づく授業実践が評価されたものです。



現在の状況:
 プロジェクトメンバーが所属する大学だけでなく、様々な大学の先生方から「自律型対話プログラム」のお問い合わせをいただいています。ホームページをご覧になっての問い合わせも多いですが、2010年8月に日本工学教育協会の年次大会で発表したところ、さらに多くの反応がありました。
 コミュニケーション能力の育成は、多くの大学が直面している重要かつ不可避の課題です。2011年1月にナカニシヤ出版から、本研究プロジェクトの成果が「話し合いトレーニング~伝える力・聴く力・問う力を育てる自律型対話入門」として出版されました。さらに多くの方々に、自律型対話プログラムの理念や方法、実践への関心を持っていただきたいと期待しています。

【科学技術教育】国民の科学技術リテラシーの実態調査とグループ化、グループごとの教育プログラムの開発

研究開発プロジェクト名「科学技術リテラシーの実態調査と社会活動傾向別教育プログラムの開発」
研究代表者:西條美紀(東京工業大学 留学センター/統合研究院 教授) ※終了当時

研究開発期間:平成18年度~平成21年度


掛川市で開いた太陽光発電に関する集会。
家族内、地域内のコミュニケーションを促すことを目的として設計しました。

研究の概要:
 この研究開発プロジェクトは、科学技術コミュニケーションにおける情報の受け手のニーズと受容能力に対する考慮が十分ではないという問題意識から、国民の科学技術リテラシーの実態調査、リテラシー構造のグループ化を行い、グループごとの教育プログラムを開発しました。

研究の成果:
 まず、全国規模の質問紙調査を行い、「科学」「社会」「科学重視」の3つのリテラシー因子を抽出、科学知識量との相関を分析しました。すると科学知識量が多い人が必ずしも科学に対して肯定的ではないことや、社会への関心が高い人は科学への関心が低くても科学の社会的な役割についての理解が高いことがわかりました。
 次にこの3つの因子の相関から、人々を4つのタイプに分類し、それぞれのタイプ別のリテラシー向上のための教育プログラムを開発、実施しました。異なるタイプ同士のコミュニケーションの円滑化が相互のリテラシーを補完し、社会全体としてのリテラシーの向上につながっていくということもわかりました。
 科学技術リテラシーのクラスター分析手法の開発は、学術的貢献としても、今後の科学技術リテラシー向上のアウトリーチ活動における社会的貢献としても、有益かつ有効であり、今後イベントや教育プログラムの実施にあたって、簡易版調査紙や談話分析等により参加者のリテラシー分布の把握に広く活用されることが期待されます。

現在の状況:
 現在、簡易版のリテラシー判別質問紙を使って、様々な科学イベントの来場者や、中学生や高校生のリテラシー傾向を調べる調査を進めています。また、リテラシー向上プログラムとしては、都内の小学校をフィールドとして、理工系大学院生と小学校教員の協働による理科教材作成プログラムを実施しています。さらに、静岡県掛川市では、太陽光発電の導入と普及に関する研究を、太陽光発電や経済学の専門家だけではなく、市役所や市民代表などと共に進めています。これらのプログラムの基本は、異なるリテラシー傾向をもつ人々を共通の場に集め、現実の課題解決を目指す点にあります。

【科学技術教育】脳神経科学リテラシー向上および、専門家の社会リテラシー向上のための研究開発

研究開発プロジェクト名「文理横断的教科書を活用した神経科学リテラシーの向上」
研究代表者:信原幸弘(東京大学大学院総合文化研究科 教授)※終了当時

研究開発期間:平成18年度~平成21年度


南山大学(写真上)、成城大学(写真下)における脳神経科学リテラシーの授業風景。教科書『脳神経科学リテラシー』に基づいて作成した授業用スライドを用いて授業を行っています。

研究の概要:
 近年、「脳神経科学」の産業化が進展し、一般市民の生活や社会に及ぼす影響が大きくなっています。脳神経科学の専門家ではない一般の方々の脳神経科学リテラシーの向上、及び脳神経科学者(専門家)の社会リテラシー向上を目指し、将来、社会をリードしてゆくべき大学生の脳神経科学リテラシーの向上をはかるための研究開発を行いました。

研究の成果:
 大学生の一般教養の授業で使用する教科書とスライドを作成しました。通常の入門書のように体系的にまとめるのではなく、脳神経科学が一般市民の生活と社会にとって重要な関わりのある事項を調査・考察して項目別にまとめるという手法を取りました。
  これらの教材をもとに、複数の大学で実際に一般教養科目として授業を展開、教材を改善していくとともに授業評価のためのアンケートを実施し、結果を分析しました。
 また、脳神経科学リテラシーとはそもそも何かを理論的に考察し、「一般市民と専門家の双方向的なコミュニケーションを成立させ、社会政策や人間観の構築を適切に行うのに必要な知識と技能」であり、「知識を批判的に吟味してその信頼性や有用性を知る『知識についての知識』」であること、また「脳神経科学の専門家を養成して社会に普及させる必要のある知」であること等を明らかにしました。

現在の状況:
 脳神経科学リテラシーの教科書が授業を受けた大学生のみならず、その他の大学生や市民の方々にも容易に入手できるようにするために、教科書を一般の出版社から刊行することにしました。そのために、教科書の内容をさらに推敲してより正確を期すとともに、読みやすくするための表現上の工夫も行いました。また、出版社を通じて、用いた図表・脳画像についての著作者の許諾を得る手続きを行いました。こうして2010年10月に勁草書房より『脳神経科学リテラシー』を刊行する運びとなりました。また、教科書の刊行とならんで、引き続き、2010年度の前半には東京大学と玉川大学で脳神経科学リテラシーの授業を行い、また後半には刊行されたばかりの教科書『脳神経科学リテラシー』を用いて、成城大学と南山大学で授業を行っています。さらに、それとともに、授業評価アンケートの実施も継続して行っています。