No.14 現代の高齢者の活動能力を測定するための新しい指標を開発!


RISTEXの研究開発領域内で活動された研究者や、RISTEXの支援している活動に参加されている研究者を突撃訪問!
論文からは見えない研究の背景や裏話はもちろん、「人」に鋭く迫ります!

鈴木 隆雄氏(独立行政法人 国立長寿医療研究センター 研究所長)に突撃取材!

 今回は、「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」から、高齢者の活動能力を測定する新しい指標の開発に取り組む鈴木隆雄先生(独立行政法人 国立長寿医療研究センター 研究所長)のご登場です。
 RISTEXの「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」は、平成22年度に設置された、高齢社会の問題に取り組む研究開発領域です。平成22年4月に初めての提案募集を行い、4件の研究開発プロジェクトを採択しました。鈴木先生の研究開発プロジェクト「新たな高齢者の健康特性に配慮した生活指標の開発」もそのひとつで、平成22年10月から研究開発をスタート、平成25年9月末に活動を終了しました。研究を終了されたばかりの鈴木先生を、愛知県大府市にある「国立長寿医療研究センター」に突撃しました。


国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)

研究の概要について

――RISTEXでの3年間の研究開発期間を終了され、成果である高齢者の活動能力指標(以下、JST版)を完成されました。今のお気持ちをお聞かせください。

鈴木 ホッとしました(笑) 研究を始めたときの予想よりも使いやすくて良いものができたと思います。これから是非みなさんに使っていただきたいです。

――指標開発を始めようと思われたのはどのような理由からですか。

鈴木 日本では高齢化率が25%を超えており、今や高齢者は3000万人以上です。とてつもなく大きな集団で、非常に多種多様ですから、一元的に測るのは難しいんですね。けれども高齢者の健康や活動、生活機能を一定の水準、尺度で評価することは、超高齢社会に役立つ施策を立てたり、高齢者のQOLを向上させたり、さまざまな面で非常に大事です。
 現在広く使われているスタンダードな指標として「老研式活動能力指標」(以下、老研式)と呼ばれるものがあります。とても良く出来ていて、信頼性や妥当性も高いのですが、開発されたのが1986年なので、時代に合わなくなっている部分があります。25年前には携帯電話もeメールも振り込め詐欺もなかったですからね。社会が大きく変わっているので、現在の高齢者の能力を測定するにはやや古くなってしまっているんです。

――お年寄りのイメージも25年前と現在とではずいぶん違いますね。

鈴木 そうなんです。図1のグラフはある特定の地域の高齢者の生活機能を老研式の得点で10年ごとにプロットしたものですが、70~74歳の女性の平均得点の分布をみると、1988年には13点満点中9.5点くらいだったものが、10年後の1998年には11点、さらに10年後の2008年には11.5点に上がっています。13点満点で平均得点が2点も上がるというのはものすごいことで、20年前と比べて、現在の高齢者の生活機能が著しく向上していると言えます。男女とも、他の年齢においても同じことが言えます。


図1 この20年間で日本の高齢者の生活機能は確実に向上している

――社会の変化だけではなく、高齢者の生活機能自体も大きく進化しているんですね。

鈴木 元気な高齢者が増えているんですね。特に65歳から75歳未満の前期高齢者の生活機能は50代の人とあまり変わりません。ですからここ10年くらいでしょうか、元気な前期高齢者の方たちに老研式指標を使うと、満点の人がとても多いんです。
 満点の人が増えるのは喜ばしいことですが、「天井効果」といって、得点分布が高い方に歪んでしまい、それ以上のレベルの評価ができません。そこで老研式よりも高いレベルの高齢者の生活機能評価ができるような指標の必要性をずっと感じていました。

――「活動能力指標」というのは健康度を測るものなのでしょうか。

鈴木 そうです。若い世代は自立しているのが当たり前なので、病気のあり・なしを健康と不健康の分け目にできるのですが、高齢者になれば慢性疾患を持っている人が多くなります。血圧も高くなるし白内障にもなるし耳も遠くなるし関節も痛くなる。ですから「症状」で判断するとほとんどの人が「不健康」ということになってしまいます。でも何かしら慢性疾患を持っていても、みなさん外を元気に歩いて人生を楽しんでいらっしゃる。とすると、高齢期の健康の水準は病気のあり・なしではなく自立の度合い、つまり自分のことが自分でしっかりとできるかどうか、また望むべくは、若い世代がやっているような有償労働、あるいは社会に貢献できるかどうかということになるわけです。

――それで今回の「JST版」の開発につながったのですね。

鈴木 はい。特に地域で普通に生活している前期高齢者は非常に活力が高く、社会参加の希望も強いですし、社会もそれを期待しています。
 ロートンという老年学者が1972年に、高齢者の生活機能について7段階の階層モデル(単純なものから複雑な順に、生命維持、機能的健康度、知覚・認知、身体的自立、手段的自立、状況対応、および社会的役割)を提唱したんですね。老研式はこのロートンの分類に沿って作られていますが、7段階のうち5~6番目を主としており、7番目の社会的役割までは含まれていませんでした。でも高齢者の活動能力が向上したので、6~7番目の能力に焦点を当てたものが必要になってきたんです。ですからJST版は質問項目を今日的なものに置き換えると同時に、もう少し高次のレベルまで加えました。

JST版新活動能力指標について

――それでは、早速JST版の活動能力指標について伺いたいと思います。コンセプトは「一人暮らしの高齢者が自立し、活動的な日常生活を送る上で必要な活動・機能・能力の指標」ということで良いのでしょうか。

鈴木 その通りです。コンセプトはJST版も老研式と変わっていません。時代や社会が大きく変わっているのでそれに合わせたものを作成したがJST版です。ですからJST版は老研式と一元性を持ち、拡張した概念を持っています。

――図2が今回開発されたJST版、図3が老研式の指標の項目ですね。開発の経緯について教えてください。

鈴木 指標の開発にあたっては、まず老研式の3つのカテゴリーである「手段的自立」「知的能動性」「社会的役割」の概念を拡張して新しい要素を加える作業から始めました。先ほどのコンセプトに沿って必要と考えられるものを専門家から意見や新しい知見の提供を受けたうえでプロジェクトメンバーが何度も討議を積み重ね、高齢者へのヒアリング調査も行いながら、最終的に20の小領域にわたる88の予備項目を作成しました。


プロジェクトメンバーによる討議風景

 次に、この88項目を絞り込むための予備調査を行いました。大都市部(東京都練馬区)と中小都市部(愛知県半田市)の70歳から79歳までの2210名の方にアンケート調査を行い(回答率62.5%)、地域差・性差、前期高齢者と後期高齢者での年齢階層差があるかどうか、言い回しが適切であるかどうか、回答者が質問項目を正しく理解できるかどうかなどを調べました。ここで88の項目をそぎ落としていきました。
 その後全国調査を行い、最初の尺度構成を行いました。この結果をもとに候補項目の通過率や地域差・性差の確認を行い、新しい尺度の構成と信頼性・妥当性について検証、最後にもう一度全国調査によって標準値の策定を行いました。


図2 JST版新活動能力指標


図3 老研式活動能力指標

――調査を積み重ね、綿密な分析を行って、科学的根拠を持った4カテゴリー(因子)、16項目が決まったんですね。項目の数はどうやって決められたのですか?

鈴木 項目の数は少なければ少ないほどいいんです。項目が多いと、受ける方も、集計する方も大変ですからね。老研式は13項目ですが、JST版は4カテゴリーで16項目に良く収まったな、と思います。この16項目で現在の高齢者の健康水準、日常の生活能力の8割くらいを説明できるようなものに仕上がっています。しかも一つのカテゴリーにちょうど4個ずつきれいに収まっている。これは意図してそうしたわけではないんです。因子分析で統計学的に分析したらちょうど4つずつになったんです。

――項目を決めるのは大変でしたか?

鈴木 大変でしたね。通過率がとても高いものと、とても低いものは外しました。あと性差や地域差が極端なものもダメです。
 性差については、もともと「性役割」というものがあるんですね。例えば老研式には「自分で食事の用意ができますか」という質問がありますが、これはすごく性役割が大きい項目なんです。今から25年以上前に男が調理をするなんてハードルが高かった。でも「調理をする」というのはものすごく大事な日常的活動能力なので聞かないわけにはいかない。そこで「料理なんかしたことがない」という男性には「自分でお湯を沸かしてお茶を入れることができますか」という代替の質問が用意されているんです。ですからあまり性差の大きいものはJST版では採用しないようにしました。
 地域差については、老研式に「バスや電車を使ってひとりで外出できますか」という項目があります。これも大事な質問ですが、今日、田舎に行けば行くほど公共交通機関がないんです。バスや電車がどんどん廃止されて、みんな車になってしまいました。なので「あなたは車を運転しますか」という質問を用意したんですが、地方では認知症にでもならない限りみんな運転するんです。ですから通過率が高くなってしまってこれも最終的には外れました。大都市に住んでいる人と地方に住んでいる人が同じように回答できない質問は外さざるを得ませんでした。
 今の社会実態と合わせてあまりにも通過率が高かったり低かったりするのも問題がありますし、今日の高齢者にとってどのあたりがハイレベルなのかと言うポイントの見極めも難しかったですね。ハイレベルでもチャレンジ可能なものなのか、無理なものなのか。多くの人が少し頑張ればなんとかなりそうだというレベルの設定とか、難しかったですね。

――プロジェクトメンバーはどのような方たちだったのですか?

鈴木 東京都健康長寿医療センター研究所の増井幸恵先生が分析班の中心的役割で活躍してくれました。また研究メンバーが頑張ってくれたことはもちろんですが、老研式指標の開発者である聖学院大学の古谷野亘教授など、高齢者の健康や社会生活に造詣の深いたくさんの専門家の知見をいただいたことも大きかったです。
 高齢者のIT利用に関しては大阪大学の権藤恭之先生、就労については「生活・福祉環境づくり21」の常務理事の川瀬健介先生、社会貢献や社会参加については東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典先生など、他にも多くの専門家の方たちと議論をしながら作っていきました。


ダイヤ高齢社会研究財団 澤岡詩穂先生による高齢者の社会関係に関するレクチャー

指標の項目について

――予備項目として抽出された全88項目の中で「これを落とすのは残念だった」というものはありますか?

鈴木 たくさんありましたね。例えば「DVDプレイヤーの操作ができるか」と「ファックスを使えるか」。似たような質問を二つしても意味がないんです。ですから相関性の高いものはどちらかを落としました。
 「有償労働」も今後広がってくるだろうと思われるので、入れるかどうかすごく悩みました。でも「有償労働」は、社会参加のカテゴリーの中のボランティア、自治会の世話役と非常に似た能力だろうと考えました。この指標では「現象」ではなく「能力」を測定するものなので、相関係数が高かったもののうち「より通過率が高い」「より汎用性が高い」ものを選びました。

――落選項目の中で「預貯金の残高の把握」が面白かったです。女性は94.5%の通過率です。しっかりしているんだなぁ、と(笑)。

鈴木 女性ほどじゃないけど男性も高かったですよね(77.0%)。聞いても意味が少ないので削りました。

――健康や服薬に関する項目も通過率が高かったので削られたんですね。

鈴木 日本人の健康リテラシーは外国に比べてとても高いんです。健康情報がとても充実しています。また、自分の健康にみなさんすごく関心がある。高齢になればなるほど関心は高くなります。高齢者の関心は3K、つまり「健康・カネ・家庭」なんです。健康情報に関するアンテナがしっかりしていて、それを自分で実践しようとする国民性を持つ国は平均寿命が高いんですね。

――その他に落選して残念だった項目はありますか?

鈴木 「インターネット」も本当は入れたかったですね。通過率があまりにも低すぎて入れられませんでした。全体通過率が23%、男性は34.7%ですが、女性は14.1%で性差も大きく、都会と地方でも大きな差がありました。ITリテラシーは恐ろしいと思いましたね。使う人はどんどん進むし、使わない人はどんどん遅れていくのですごく差がついてしまうんです。

――調査としては面白くても、指標の項目としては通過率が低くて入れられないんですね。

鈴木 ただ通過率はだんだん上がって行くんですよ。老研式ができた頃、多くの人は7割くらいしか点が取れなかったんです。それがだんだん取れる点数が高くなって、今はかなり多くの人が満点を取るというように変わってきている。高齢者のできることが増えているんです。
 JST版に「携帯メールができますか」という項目があります。今は通過率が低いかもしれませんが、通過率が50%を超える頃には、データを見て「高齢者の半数が携帯を使っているんだな、自分も使わなくちゃ」と言う風に使う人が増えていきます。また現在45歳の人は使いこなしていますから、その人たちが前期高齢者になる20年後には多分ほとんどの人が「使っている」という回答をするようになるでしょう。
 社会に関わる機能は進歩し続ける。それが高齢者のあるべき姿かなと思います。社会の変化に合わせて高齢者も当然変わっていきます。高齢者像というのは常に良い方に動いて行くんですね。特に団塊の世代以降はフレキシビリティも高いです。

――ちょうど団塊の世代が前期高齢者にさしかかったところですね。

鈴木 そうですね。社会の変容に対して適応性が高い集団ですから、この指標も今後社会がかなり変容しても15年くらいはもつかなと考えています。人口減少や少子化の進展や高齢者の増加という中でIT技術の進展も含めてどのような社会になっていくのか、時代の流れが凄まじく速く、20年後の世界なんて想像もできませんが。

――後期高齢者も変わりそうですね。

鈴木 そうですね。今の後期高齢者と15年後の後期高齢者とではまた違うでしょうね。そして後期高齢者のさらに上の「超高齢者」と呼ばれる人たち(85歳以上の高齢者)もおそらく増えていくでしょう。今、100歳以上が4万人以上いるのですが、これからもっと増えますからね。
 高齢者の割合が多くなると世の中が「失活化」する、という方もいらっしゃいますが、私は必ずしもそうではないと思いますね。日本は著しい高齢化を遂げてきましたが、今、日本の人口の25%、3000万人も高齢者がいたって、失活化していません。高齢者がいるから失活化するのではなくて、高齢者のクオリティをいかに高くしていくか、ということが大事なんですね。

――そのクオリティというのは、自立的で活動的である、ということですね。

鈴木 そうです。時代時代でデマンドは違ってくると思いますが。

――通過率が高くない項目で残ったものに、「自治会などの世話役を引き受けることができるか」というのがありますね。私は役員と聞くと逃げ回るので、かなりハードルが高いように思うのですが。

鈴木 老研式と比べてレベルが高いことは確かですね。でも日本人は65歳でリタイアして、その後働きたくないという人はあまりいないんですよ。これは日本人の特性ですね。英語で「Labor」は労働ですが、実は出産のことも「Labor」と呼びます。つまり「Labor」は、人間がやらなければいけないけれどもつらいもの、「苦役」を意味しているんです。だから「Labor」から解放されることが「Retirement」です。
一方、日本では65歳で定年を迎えるというのは、苦役から解放されることではなくて、本人はもっと働きたいのに社会がもう年ですから止めてくださいということなのです。
もちろん働きたいという理由はいろいろで、経済的なことが一番多いですが、二番目は「健康のため」、三番目は「生きがい」なんです。この二番目と三番目の理由は外国ではあまり見られない。つまり日本は欧米と違って独自の文化を持ち、身体が動く限り仕事を持って働いていたい、週に2回くらい、5時間くらいでもいい、働いてわずかでもお金を稼いで、孫に何か買ってあげるなど、自分の生きがいのために働きたいという人はたくさんいるんです。

 ですから、ボランティアをするとか、自治会の世話役をするとか、嫌いなわけじゃないんだと思います。ただ日本人には「奉仕活動」とか「無償ボランティア」があまりなじまないので、作った自分たちが言うのもなんなんだけど(笑)、ハードルが高いように感じるかもしれませんね。有償ボランティアだったら喜んでやる高齢者はたくさんいますよ。わずかでも働いてお金をもらうということで気持ちに張り合いが出るんです。ですから私はそれほど高いハードルだと思っていないんです。今は通過率があまり高くないかもしれませんが、10年後にはかなり当たり前になっているのではないでしょうか。
 コミュニティは支える人たちがいないと続いていきません。でも若い人たちは忙しくてなかなか活動に参加できないことも多いですから、元気な高齢者が積極的に地域の活動に参加して、コミュニティを支えていく力になるような、是非そういう社会になってほしいという願いを込めているんです。

――指標を作っているプロセスから現代の日本の高齢者像の特徴は見えましたか?

鈴木 今の社会が老研式のイメージする社会とは全く違ってしまっているということですね。例えば老研式に「銀行の預金・郵便貯金の出し入れが自分でできますか」という質問があります。でも今や銀行に通帳と印鑑を持って行く人はほとんどいません。ATMやコンビニでお金を出し入れするなんて、老研式指標を作っているときは想像もできなかった。そんな中で高齢者が大変良く適応しているんだな、ということですね。
 少なくとも前期高齢者は、我々40代、50代の人と変わらない。IT関連のような新しい項目は少し変わるかもしれませんが、基本的な生活をしていく上で非常に重要だと思われる項目について、今の前期高齢者の通過率は大変高いですからね。非常によく適応して、しっかり日本を支えている集団なんだな、と思います。だからなおさら有償労働や社会参加が積極的にできるようになるといいと思っています。

単独ではもちろん、老研式と組み合わせてより幅広い対象に使うことが可能

――JST版の素晴らしさの一つは、単独で使えることはもちろんですが、老研式と組み合わせて使うことでより広範囲のグループを一元的に見ることができるということですね。

鈴木 JST版は項目のレベルが高いので、地域で普通に生活している前期高齢者に向くんです。ただ、もうちょっと年齢の上がった後期高齢者や、比較的虚弱になっている要支援レベルの人、介護予防対象者(要支援・要介護になるおそれがあると認定された高齢者)などを含めたグループを調べたい場合には、JST版だけだとレベルが高すぎて低い得点しか取れない人が多くなってしまいます。
 でもJST版は老研式と高い相関(r=.703)を示し、一元性が高いので、老研式を組み合わせて29点満点の指標として使ってもきれいに能力別にラインができるんです。


図4 老健式とJST版を統合して一元的に評価できる

 ですから行政がある地域全体のような幅広い高齢者のグループを測るような場合には、老研式と組み合わせると効果的です。また企業などが元気な高齢者向きのビジネスなどを企画するようなときに用いるにはJST版だけで十分でしょう。
 後期高齢者や虚弱の人が多い場合には厚生労働省が作成している「介護予防のための基本チェックリスト」が向いています。また既に病気を発症している人やリハビリを受けている人たちにはバーセルインデックスという指標を使うのが良いと思います。

――階層によって使う指標が違うんですね。

鈴木 そうです。これまでは一番能力の高い集団に使う指標が老研式でした。介護保険を申請する人たちは高齢者全体の15%、つまり450万人くらいです。残りの85%、2500万人以上の方たちに老研式を使うわけですが、この膨大な数の人たちの多くが満点では健康度の階層性がわかりませんからね。もっと高い能力を測る指標が求められているのです。そこでJST版を使ってもらえればと思います。

――具体的にはどのように活用されることを考えていらっしゃいますか?

鈴木 高齢者の健康状態や社会的活動が弱ってきたというような状態をより早く把握し、その後の状況を予測することができるので、専門家向けにはより早期の介護予防・孤立予防のツールとして役立つと思います。
 また、地域住民全体の健康度・活動度の診断や介入の評価に用いることができるので、自治体や研究者の方には行政施策の基礎資料になります。
 また、先ほども触れましたが、個人の機器利用や活動参加への準備性、サポート内容について診断的評価ができるので、民間事業等での新規の機器開発を促進するツールとしても使っていただけると考えています。

――これからいろいろな場面で有効に使っていただける指標になりそうですね。

鈴木 ご期待に応えられるものはできたと思っています。大規模な調査を何度も行って妥当性、信頼性を繰り返し検証しながら作りました。科学的根拠に基づく裏付けがありますから。

――質問項目の中で、「・・・できますか」と聞かれているものと、「・・・していますか」というものがありますね。「している」というのはその人の"やる気"や"行動力"を問われているということですね。これは議論があったのではないでしょうか。

鈴木 それは、ものすごい議論がありましたよ。こういう指標を作る際の永遠のテーマですね。
 老研式は「できるか」という"能力"を聞いています。公共交通手段を使って遠くまで一人で外出「できる」か、「できないか」などです。
 でも既にご説明したように、今回は非常にレベルの高い高齢者の方、老研式よりもさらに高いレベルの方たちをターゲットにしているので、「できる」ことは前提として、健康行動の結びつく社会的活動については「している」か「していないか」に焦点を当てました。これは「生活習慣」を聞いているんです。能力ではなくて。
 例えば町内会の世話役が「できる」か、と聞いたら、みんな「できる」と答えますよね。だけど問題なのは、「している」かどうか。している、ということはより高い生活機能を持っていることになると考えました。やる気になればできる、でもやらない、という人と、実際にやっています、という人で大きな差があると思うんです。
 持っている能力を、日常生活、日常行為の中で習慣化して使っているかどうかを聞きましょう、という考え方です。「できる(can)」ことを「している(do)」か。「している」ことが重要なんだ、と。

――高齢者が自立的で活動的な生活をしていくためには、意識の高さが問題だ、ということですね。

鈴木 その通りです。ヘルスリテラシーが十分備わっているかどうかが大きく影響します。自治体の役員を引き受けている、というようなことは、ある意味で健康に結びつく「保健行動」なんですね。活動能力を測る上では大きく違ってくると思います。
 項目の検証を行っている時にちょうど「地デジ化」が実施されたんですね。それで、「地デジ化」に誰が対応したか、対応者別にJST版の得点を当てはめてみました。
すると、「自ら地デジ化に対応した」人の平均得点は16点満点中12点を上回りました。「家族にやってもらった」人は9点。「業者に依頼した」人は10点くらいでしたから、「自分で対応した」人の得点は明らかに高いことがわかります。新しい事柄への対応能力がよく表わされていると思います。

JST版の標準値からわかったこと

――全国調査の結果から、JST版の標準値を設定されました。どのようなことがわかりましたか?

鈴木 全国調査は2回、計2580名の方に行いました。全体では16点満点中10点が中央値(データを小さい順に並べたとき中央に位置する値)で、平均値は9.72でした。

 カテゴリー別では「情報収集」と「生活マネジメント」はそれぞれ4点満点中3点が中央値で、かなり高いことがわかります。一方、「新機器利用」は4点満点中2点、「社会参加」は4点満点中1点と低めでした。
 また、専門用語で「パーセンタイル順位」というのですが、全体を100としたときの50番目、真ん中の順位の人の得点をみたところ、全体では10点でしたが、年齢別で前期高齢者は11点、後期高齢者は9点と2点差があることがわかりました。性別で分けると、男性は11点、女性は10点と1点差がありました。
さらに移動能力で「公共交通機関を使って一人で外出できる」人と、「一人で遠出はできない」人で分けたところ前者は11点、後者は5点と大きな差があることがわかりました。

RISTEXでの研究を終えて、これから

――RISTEXでの研究開発は終了されましたが、研究そのものはこれからも継続されるんですね。

鈴木 はい。指標が完成したばかりなので、予測妥当性の部分はまだ測定できていないんです。この指標を使った、おそらくは万単位のデータを見ていくことになるでしょう。一万人のデータを取って、その得点の分布ごとに数年後一体何が起きるのか。例えば標準値を下回ったグループで、数年後に要介護認定される率が有意に高くなったとか、そういったことの予測をするツールとしても使えるようにするために、予測妥当性はきちんと検証しなければいけないんですね。
 自立して生活ができるかどうか、言い換えれば数年後に自立して生活ができなくなるのは何点以下の人たちなのか、あるいはどの項目にチェックがついた人たちなのか、ということを知りたいんです。最低1年間か2年間同じ人を追跡して調べます。
予測妥当性に関する調査は老研式でも行われています。老研式では満点を取れない人たちの生命予後が悪いということがわかってきています。これからはJST版で同様の研究をしていきたいと思っています。 そのためにはみなさんにJST版を使ってもらわなければいけません。またきちんと論文化して学術的な承認を受けることも必要になります。

――指標を使われる人へのマニュアルも整備されるご予定ですね。

鈴木 どういう風に使うかはもちろんですが、この質問にはどういう意味があるのか、またこの質問に対する答えがあやふやなときには何を考えるかとか、具体的な利用マニュアルをこれから整備していく予定です。

――この完成したばかりの指標が老研式のようにたくさんの方に使っていただけるよう、応援しています。

鈴木 ありがとうございます。高齢者の健康を知る上で行政や一般の方々に広く使っていただけるよう、普及に努めていきます。



プロフィール

鈴木 隆雄

氏 名: 鈴木 隆雄(すずき たかお)
経 歴: 1951年(昭和26年)、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学助教授、東京都老人総合研究所副所長を経て、現在、国立長寿医療研究センター研究所長。専門は老年学、老年医学、疫学。特に高齢者の生活機能の維持向上に関連する要因を特定するための長期縦断研究に携っている。老年症候群や転倒・骨折の予防対策および介護予防にも力を入れている。
星 座: ふたご座

リラックスタイム

――血液型と星座をみなさんに伺っているんですが・・・

鈴木 血液型、知らないんですよ(笑)

――お医者さんですよね(笑)?

鈴木 ・・・本当に知らないんです。C型とでもしておいてください(笑)。

――脱線しますが、先生のもう一つのご専門である「古病理学」について、これは絶対伺いたい!と思ってきました。名前だけで大変惹かれるものがあります。

鈴木 本当は大学で考古学をやりたかったんです。父も医者でしたし、結局医学部に進んだのですが、大学で「郷土史研究会」に入りました。何をやるサークルかというと、発掘です。大学は地元の札幌医大でしたが、当時北海道内のほとんどすべての縄文時代の遺跡を掘りに行きましたね。
 卒業して医師になり、しばらくして昔の人の骨の病気についてきちんと知りたいと思うようになりました。そういう研究、つまり古病理学ですが、日本では誰もやっていなかったんです。それで東大の大学院に入って、人類学を学びました。その後母校に戻って解剖学の助教授をやりながら古病理学を15年以上研究してきました。

――どんなご研究なのでしょうか。

鈴木 発掘された人骨や解剖した遺体の骨に現れた病気を調べるんです。骨はいろいろな情報を持っています。骨に残った病変から死因がわかったり、生前どんな病気をしたかもわかることがある。

――昔の人骨を調べて、骨に現れた特徴から死因を探る、、、テレビドラマの世界ですね。

鈴木 まさに「土曜サスペンス劇場」ですよ(笑)。法医学関係で白骨死体の死因の鑑定依頼を受けたことがあります。白骨死体が出てきたけど、いつの時代のものかもわからない、と。その時の人骨は今から700年前くらいの擦文時代(7世紀ごろから13世紀にかけて北海道を中心とする地域で栄えた文化)からアイヌの初期くらいのものだろう、という結論になりました。歯の減り方とか、骨折の痕が歪んでくっついているとか、現代人とは全く違うのでわかるんです。専門家がみれば一目瞭然です。
 私の東大の学位論文は「江戸の性病」というテーマなんですが、特に梅毒を研究していました。梅毒がひどくなると頭がい骨が溶けてしまうんです。頭がい骨に穴があいてしまったものもありますよ。いまだにたまに鑑定依頼があったりします。江戸時代の人骨は工事現場を掘ったりするとたくさん出てきますからね。

――日本には古病理学の文献がほとんどないと聞きました。

鈴木 日本では僕がチャンピオンですよ。だって一人しかいないんですから(笑)。
 社長兼小使いで(笑)ずっとやっていたんですが、東京都老人総合研究所の副所長だった柴田博先生から突然お声がかかり、「死んだ人の骨より生きている人の骨、骨粗しょう症であるとか、高齢者の骨の研究をやりませんか」と言われて。それが転機となって、東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター)に移ったんです。

――大転換ですね。

鈴木 まさか老年医学とか高齢者を研究することになるとは思ってもみませんでした。ずっと古代人の骨の研究をして生きていくつもりでいたんですが、大きく曲がってしまい、結局どっぷり浸かって、今、高齢者の健康指標の開発をやっているわけです。世の中わかりませんよね(笑)

――研究を行う上でのモットーや座右の銘はありますか?

鈴木 諦めないこと、ですね。

――研究が上手く進まない時の気分転換法は?

鈴木 酒!(笑) 日本酒の熱燗が好きですが、最初はビールで、最後は焼酎。なんでもいけます(笑) ほんとにお酒は好きですね。

――このウェブサイトに来られる若手の研究者へのメッセージをお願いします。

鈴木 諦めるな。ホントにそうなんです。苦労していても、絶対だれかが見ています。論文を頑張ってたくさん書いても却下されたり、めげてしまうことはたくさんあります。でもそこで諦めたらいけない。また所属している機関の人間関係が上手くいかないとか、いろいろありますよね。別に研究者だけの世界ではないですけれども、そういう時に諦めてやめてしまったら何もならない。自分の夢があるうちは諦めちゃいけないと思いますね。


関連リンク

  独立行政法人国立長寿医療研究センター
  独立行政法人国立長寿医療研究センター研究所

TEXT :RISTEX広報 すもも
PHOTO:RISTEX 「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」領域担当 工藤、広報すもも
(指標およびデータ等図版は全て鈴木先生からご提供いただきました)