No.2 子どもの発達、成長過程を観察しました!


RISTEXの研究開発領域内で活動された研究者や、RISTEXの支援している活動に参加されている研究者を突撃訪問!
論文からは見えない研究の背景や裏話はもちろん、「人」に鋭く迫ります!

山縣 然太朗氏(山梨大学大学院 医学工学総合研究部 教授)に突撃取材!

みなさんは『コホート研究』ってどんな研究かご存知ですか? 大勢の人を長期間、追跡調査する研究をいいます。「脳科学と社会」研究開発領域では平成16年度から平成20年度まで「日本の子どもの発達コホート研究(通称:すくすくコホート)」でたくさんの子どもたちの成長過程を観察してきました。今回は、そのコホート研究で得た成果を社会へ発信直前の山縣然太朗(やまがたぜんたろう)教授に「子どもの成育」に関するお話を伺ってきました。

すくすくコホート研究でわかったことは何でしょうか?

例えば小さいときに親子が触れ合う、母親が子どもに本を読んであげるとか、そういう触れ合いができていると、子どもの社会性(相手の気持ちを理解し、相手の立場にたって、良好なコミュニケーションをとり、円滑に社会生活をおくることができること)の発達がいいということがわかりました。でも、結構昔から触れ合うことがいいとはみんな思っていたし、大切だとずっといわれていたけど、科学的な証明はなかなかできませんでした。科学的に証明ができるって大切なんですよ。今までなぜ科学的でなかったかというと、症例対象研究しかやってないんです。つまり、問題のある子どもは「昔、何が悪かったのだろう」と考えたときに、「家庭環境があまりよくなかった」とか「お母さんがうつ状態だった」とか。だからそれが問題なのかもしれない。問題のある子が100人くらいいる中で半分以上が家庭環境や両親の問題を抱えている、だからそうだろうという研究がすごく多くて。

確かに かも や だろう だと推測で科学的ではないですね。


インタビューの様子(左:山縣先生)

でも、問題のない子どもは、家庭や社会に問題がないかというと、実際は家庭や社会に問題があったりする子どももいる。逆に問題がある子がいても、実は家庭環境や社会の問題は関係ないかもしれない。そういう因果関係を解明する研究は今までなくてね。問題がある子どもに関してはあれもこれも悪かったって、いろんなことを思い出すけど、問題がなかった子どもたちは昔の悪いことは忘れちゃったりしてね。そう考えると、先がどうなるかわからないことが前提の場合にはコホートという研究手法が非常に科学的でいいんです。観察研究の中で最も科学的な結果が出てくるという意味でも。もう一つは、疫学研究というのは観察なので、現象を明らかにすることが全てなんです。だからとにかく問題となっているものの頻度と分布を明らかにして、原因や要因を解明しますが、そのメカニズムまでは明らかにできません。

原因や要因を解明する疫学と、メカニズムを明らかにする手法は違うのですか?

例えばお母さんと触れ合ってる子どもは、社会性の発達がよくなるのは事実なんです。だけど、なぜそうなるのかわからない。脳科学であればそれは脳の活動を計測したり、心理でそのメカニズムを明らかにしなければいけません。すくすくコホート研究ではそれも行っています。例えば、ほめることが、子どもの発達にいいと疫学研究でも、すくすくコホート研究でもわかりました。一方で、脳の活動を計測することで、報酬のシステムについての脳の活動がわかりました。お金だけではなく、人からほめられることも報酬のひとつだとわかって。それもお金をもらったときに利他的に行動を起こすときに働く部分と同じ部分が活性化すということがわかりました。だから、ほめることは報酬の一つで、それが脳に働いて、それで人に対して何かできる社会性を示唆することになるとわかるんです。でも、それをやるのに、大勢の子どもたちの脳の活動をみなければいけないわけではないんです。そういうメカニズムをみるときには、まず大人でみて、そのあとで子ども何人かをみて、やっぱりそうだったねってわかるんです。一方で、お母さん、お父さんとの関係がいいと社会的にいいかどうかっていうのは10人、20人調べても全然わからないんです。やはり何百人、何千人というお子さんを観察して初めて、「どのようにお父さん、お母さんが係わるといいのかな」と細かい分析もできたりするわけで、大規模コホート研究が必要ですし、さらに細かな観察をしたり、実験をしたりして、そのメカニズムを明確にできるのです。

なるほど・・・

すくすくコホート研究の場合、もう一つ、社会性って何? 社会性を測定しよう、社会性を測定するためにはどんな方法があるんだろうって。まだ必ずしも社会性の測定方法は十分にはわかってなかったんです。今回すくすくコホート研究では、二人向き合ってジェンガ(バランスゲーム)をやってもらいます。すると、発達障害の子はあまり他者をみないので、あまり頭が動かない。普通の子は他者をみるから、頭がよく動く。その頭の動きを数値化することで、げームの大抵をどのように評価しているか、相手を意識しているかがわかりました。

コホート研究を知らない方々に、コホート研究の重要性や、コホート研究というものを知ってもらうためには、どのようなことが必要だとお考えですか?

やはり成果をどんどん出していくことが全てでしょうね。「今までも同じことを言われていたじゃないか」といわれても、「それは、いろんなバイアス(他の影響を受けて偏る)が含まれていた研究でしたが、コホート研究に関しては原因と結果がはっきりして、本当にそうだということがわかりました」といえます。
コホート研究で、因果関係があるとわかったら、実際は介入研究でみなければないんです。例えば、僕たちは自然な状態を基本的にはみているので、さっきの親子関係にしても、親子関係がよくできるとこって、僕たちが図れていない他の要因もあるかもしれません。もちろん僕たちが測定できるものに関しては調整をして解析ができますが、それに付随して僕たちの知らない要素があるかもしれませんよね。だから親子の関係をうまくやったら社会性が上がるのか知るためには、無作為に割り付けてやる研究しかないんです。これがランダマイズドコントロールトライアル(RCT)といわれている研究で、無作為に割り付けると、無作為だから僕たちの知らないものまで同じ状態になっているはずですよね? だから、介入したことと、そうでないことの違いだけがちゃんと明らかになるんです。最終的にはそういうことをやってみないとわからないのですが、コホートでわかれば、あとは、いいといわれるものをやってみて、本当によかったか評価をします。そうすると、それが自然介入になっていくんです。ですからコホートを理解してもらうためには、「追跡しないと、いろんなことがわからない」ということをみなさんに理解してもらわねばなりません。

追跡ですか?

自分がどう生きてきたか、子供がどう育ってきたかとか、ちょっと考えてみてください。
例えば幼稚園のときは運動ができなかったのに、高校になったらインターハイに出た、っていう子どもをみると、「やっぱり追いかけてみないとわからないなぁ」って思いませんか? その時点だけで、この子は運動できない子なんだって思っちゃうとダメで、ずーっと追いかけてきて初めてわかったりしますよね? ずーっと追いかけていかないと、いろんなことってわからないと思いませんか? その時点、その時点だけでみてる研究は限界があります。ずっと追いかけていくことが大切なんです。コホート研究はとても大変ですが、重要なんですよ。アメリカではコホート研究の成果がいっぱいあって、日本でも最近、いくつか出てきてます。ですから、そういう成果をどんどん出していけばいいんです。ただ、子どもが生まれる前から追いかける研究って、なかなかやりにくいのは確かです。なぜならコホート研究の対象となるのは生まれる本人ですが、生まれる前から追跡となると本人の同意ではなく家族の同意になりますよね? そういう倫理的問題も考えていくと、もっともっと多くの成果をみなさんに知ってもらってコホート研究を理解してもらわなければと思います。コホートという言葉は知らなくてもいいんです。追跡調査とか、フォローアップスタディとか、キャッチアップスタディという言い方もあります。縦断研究とかも。でも、『コホート』って以外に、一回聞くと覚えませんか? なので掴みは悪くないかなって(笑) コホートをどんどん新聞で出してもらえると、みんなが知るところになって、そうすればなじみのある言葉になっていくかもしれないですね。

今回のすくすくコホート研究を通して、子どもたちがどのように育つとよいとお考えですか?

子どもは多分、どんなに育ってもいいのだと思います。どんな風に育っても、どういう考えを持っても、どういう生き方をしてもいいんです。ただ、人によって社会は成り立っているのだから、広い意味で社会性を身に付けなければいけないと思うんです。人に迷惑をかけない、人と協調できる、人の意見をきちんと受け入れる。それで自分の考えを変える必要はないのですが、人の意見を認める。意見が違うからあの人は敵だとか、意見が違うから一緒にできないではなく、意見は違うけど、相手を受け入れることができる。意見が違うからこそ、何かできることがあるかもしれませんよね。お互い違うことだけいっていたら何も解決しませんが「意見は違うけど、でも、どうすればいいかな」とそこで話し合う。答えは出ないかもしれないけど、話し合うことがとっても大切で、その話し合う能力、それが社会性で、それを身につけていかなければいけないと思うんです。 意見が違うとその本人を否定してしまうようなとこありますよね。大きい話では、宗教違ったり、考え方違ったって、一緒に地球の中で生きてく時にどうするか、相手を傷つけずに生きていく方法って、ありますよね?! 多くのところでそれができてるのですから、それができなくなるようなことだけはしてはいけないと思ってます。

山縣先生は二人のお子さんを育てるのに、「こういう風に育てたい!」というものがございましたか?

なにかあったと思います・・・はたしてそれが現実としてなったかは、なかなか難しいですが。例えば僕の然太朗って名前も親が、自然のように太く、たくましく、朗らかに、ってつけてるんですよね、多分。

多分?!

いえ、そうだったらしいのですが、そう育っているか・・・わかりません(笑)
そういう親の思いと子どものいろんなことって違いますよね。でも違うのは当たり前で。だって社会が違いますし。ただ、共通していえるのはどんな社会でも「人を傷つけない」「自分の意思をしっかり持つ」ということが大切だと思います。

最後に研究終了に向けての公開シンポジウムについて教えてください。

今一番考えているのは、どこまでわかったか、何がわからなかったか、わからなかったことはもう知らなくていいことなのか、もしくはそのことを知るためには、どんな研究を今後やらなければいけないのか、を提示する。次の大規模コホート研究に向けてしなければいけないこと、これは、かなりのことがわかったと思います。それについては、きちんとお話できるのではないかと。あとは、この手の研究の重要性をきちんと出すことですね。親子関係のこととか、倫理の問題とかね。




プロフィール

氏 名: 山縣 然太朗(やまがた ぜんたろう)
経 歴: 山口県立下関西高等学校卒業後、山梨医科大学医学部へ入学。その後、文部省在学研究員として米国カリフォルニア大学アーバイン校(UCI) 小児科人類遺伝学教室(Prof. Moyra Smith)への留学を経て、山梨大学大学院医学工学総合研究部の教授となり現在に至る。
専門: 公衆衛生学、人類遺伝学、疫学・ゲノム疫学
血液型: AB型
好きな食べ物: おでんの牛スジ、米菓子(あられ類)、みかん
嫌いな食べ物: なし

山縣先生に3つの質問

休日は何をされていますか?

大学に行ってます。僕の仕事がちゃんとできているかどうかのバロメーターは週末に大学の部屋の掃除ができるかどうかなんです。一週間経つと山のようになってるから。それで、週末に掃除ができて月曜日に比較的きれいな状態で仕事ができるかどうかんですが、土日にも研究会や講演会があったりするので、なかなか掃除ができなくて。掃除する前に、抱えている原稿を書くとか、そういうのがあるとダメで、本当に部屋がきたなくて。ということは、それと同じくらい頭の中や仕事の状態が混乱しているってことなんです。それを何とかしなければといつも思っているので、土日は掃除に使おうとしてます。

研究に行き詰ったときや、仕事の息抜きなど、気分転換にはどのような事をされますか?

夜やっていても、頭が働かないなーって思ったら帰ってすぐ寝ます。ここまでやらなければというのは、よっぽどのことがない限りしないで、次の日の朝やるようにしています。
だから、こなせているのでしょうね。要求される部分はとても大きくて多いけど、僕の場合はそれに対して自分でほぼ100%コントロールしているから、精神的にいいんでしょうね。

研究を行う上でのモットーや座右の銘があれば教えてください。

地域で起きていることを、住民の声を聞いて、それを科学的に解決できるかやって、できたら結果を住民に返すという「研究は住民に始まり住民に終わる」がうちの教室のモットー。全部で5つあり、二番目は「教室の風通しをよくする」三番目は「学生を大切にする」四番目は地域で起きている事をみるためにも、「外に出て仕事をする」机の上の研究だけではなくね。五番目は「それを纏めて世界に発信する」そのためには、日本語で書いていてはダメですよね。その辺のところを自分が教授になった時に掲げました。

取材を終えて

山縣先生が考える 食育 について伺いました。
「食育って何をするかではなく、なんでも食べられる人間を作ることが一番大切だと思うんです。なんでも美味しく食べられるのは、人に対する思いやりにつながる。世界で共通して人をもてなすことは食事だったりしますよね。それを、出されたものが食べられなかったらお互い、そんな悲しいことはないですよ。だから、なんでも食べられるということが結局は人に対する思いやりだったり、感謝の気持ちを表現するのに一番よかったりするわけで。それは親に感謝しています。なんでも食べられる大人にしてもらえて(笑)」

みなさんは子どもたちが健やかに育つためには何が大切だとお考えですか?
すくすくコホート研究では平成21年3月7日(土)に公開シンポジウム「子どもたちの明日に向けて~すこやかに育つ環境を、科学的に解明します~」を千代田区にある学術総合センターで開催する予定です。脳科学、小児科学、心理学、教育学、疫学、統計学といった様々な分野の先生が発表します。子どもたちのために何が大切か、わかるかもしれません。みなさん、お気軽にご参加くださいね。
(すくすくコホート研究についてはこちら→ http://www.jcs-ristex.jp/ )
(公開シンポジウムの詳細についてはこちら→ http://www.the-convention.co.jp/jcs-ristex/ )

TEXT:大倉 美幸/PHOTO:石川 麗子

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