No.3 世界規模の社会実験!?みんなで集まって地球温暖化について話し合おう!


RISTEXの研究開発領域内で活動された研究者や、RISTEXの支援している活動に参加されている研究者を突撃訪問!
論文からは見えない研究の背景や裏話はもちろん、「人」に鋭く迫ります!

小林 傳司氏(大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター 教授)に突撃取材!

地球温暖化問題、気候変動、CO2削減目標・・今一番世界で関心の高い問題の1つでもあり難しい課題となっているこの問題を皆さんはどれくらい考え、他の人と意見を交換したことがありますか? 今年2009年9月26日に世界30以上の国と地域で一斉に開催されるこの会議では、普通の市民が世界と同じ手法・同じ資料を使ってこの問題について1日かけて議論します。そして2009年12月に開催される「COP15」にその声を届けることを目標としています。
日本では京都で開催されるこの新しい形の市民会議を運営するのは、参加型テクノロジーアセスメントに関する研究を実践を通して行っている大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD) 小林傳司(こばやし ただし)教授と温暖化問題を1つのテーマに据え、様々な利害を持つステークホルダー間で議論する場の設計に関する研究を行っている上智大学 柳下正治(やぎした まさはる)教授、また科学技術と市民社会の架け橋となる人材を養成する北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット代表 杉山滋郎(すぎやま しげお)教授が中心となっている「WWViews in JAPAN実行委員会」です。

今回はその実行委員会委員長であり、社会技術研究開発センターの「科学技術と人間」研究開発領域の領域総括補佐である小林傳司先生にお話を伺うことになりました。

先生がWWViewsにかかわったきっかけについて教えていただけますか?

最初のきっかけは、デンマーク科学技術委員会(DBT)のラース・クリューバー氏より直接、僕に電話がありました。確か、2008年3月頃だったと思います。スタッフの確保やロジスティックの面でも運営資金の目処を立てることが非常に難しいと感じ、回答を保留にしていました。が、1ヶ月後にWWViewsのホームページを見たら、ヨーロッパのいくつかの国と韓国と台湾が参加を表明していました。各国が続々と表明をしていく中で、「京都議定書を生んだ日本がやらないわけにはいかない」と思い、参加を表明しました。

WWViewsを開催する魅力とはなんですか?

様々な国際会議では、46カ国もの国が同時にひとつのことについて議論をすることはなく、例のない世界初の試みが今回のWWViewsになります。アンケートによる世論調査ではなく、不十分ながらも普通の人々が集まって議論をする構造をきちんと組み、限られた時間ですが100人が考えた上での意見を言います。同じテーマ、同じ手法で行うことによって、世界中の人の考えを取り出して比較することができ、また今後同じ手法で別のテーマでも行うことが可能だろうと考えています。

今回の手法を用いることで、今後どのような可能性があると思われますか?

昨今、経済がグローバル化しているとよく言われますが、同時に市民社会がグローバル化したときに、「グローバルな視点で市民社会が協働することが可能なのかどうか」、また、「政府・経済界以外の市民社会が主人公になって、グローバル化の中でどう声をあげるか」という仕組みづくりがとても大事だと思います。今までは、国連があって、国単位で参加をしていましたが、それとは別の方法で市民社会が発言することで、意見が重層的になる。そういった仕組みがこれからの時代に必要だろうと思います。今回の取り組みは、その第一歩の社会実験になればいいと思っています。 ただ、現在の状況は世界中が参加をしているといいながら、欧米が形を作り、発言してリードをしています。どうにか非欧米では日本だけが声を出して手法や質問項目に対してコメントを言っていますが、世界のパワーバランスはこのような状況です。でも、少しであっても声を出し続けることは非常に大切で、欧米に言われたとおりの追随ではなく、独立して参加できるようなポジションにコミットしていくことはとても重要でしょう。

実際にデンマークのコペンハーゲンにてセミナーを受けに行かれたと伺いましたが、どのような印象を持たれましたか?各国の参加者はどのような人々が多かったのですか?

実際に行ってみて思ったのは、日本は真面目にあらかじめデンマークから送られてきた資料を読み込んでコメントして、当日の流れについても分かっていたのだけど、アジア、アフリカなど多くの国はまだその情報のやり取りについていっていなく、各国の実務者が情報交換するイントラネットすら見ていない国が多かったです。しかし議論自体はとても盛り上がり、デンマーク側がよく準備されたものだったと思います。 44の国と地域からの参加者は、シンクタンクや研究機関、大学、NGO、博物館関係者など様々です。ただ、年齢はみんな若いんですよ。アメリカから来た2、3人くらいが50代みたいでしたけど、他は若いのに、みんな重要な役割をしていました。内容を分担して、主要なプレゼンテーションをしていた人もみんな若い。デンマーク技術委員会(DBT)の担当者も30代前半くらいの人が要として動いている。日本はこういった活動をする実務者が高齢化していると思いました。若い人に権限がいっていない。

WWViewsの会議に参加した市民による投票で決められたことを、会議後はどのように活用するかなにかお考えがありましたら教えていただけますか?

世界で共通に使用した情報提供資料、質問項目、ビデオはすべて公開して、自由に使ってもらえるようにする予定です。誰でも同じ設定で会議ができるようにしたいと思っていますし、この会議がどういう意味を持つのか、会議を批判的に検討する場を作りたいと思っています。また、主催者であるデンマーク科学技術委員会がCOP15に今回得られた意見を提出すると言っていますので、日本でも産業界や参加した一部の市民などに集まって議論をする場を持つような場の設計もアイデアとしてあります。

WWViewsはうまくいくと思われますか?また、今後このような市民会議の可能性はありますか。

成功の基準はすごく難しいと思います。9月26日の当日にトラブルがなかったら成功なのか、何らかの結果はでますが、それで「成功」としてしまい、ひとつのイベントとしてしまっていいのか。それより、どういう意味でこのような取組みが大事で、どういう風に日本の中で位置づけられていくか、どうしたら日本の社会の中で繰り返し市民参加型会議ができるような仕組みを作っていくのか、という議論を本当はしなければならないと思っています。特に、日本でも食品・商品の産地や安全性に敏感になってきました。食品安全委員会もありますし、消費者庁もできますよね。そのような際には、市民社会との意見交換をやらないといけなくなります。わかってはいるけれど経験不足なので、最初はスムーズにはいかないかもしれませんね。

得られた結果はどのように活用されるのでしょうか。

参加した人は、「一日かけて議論したんだから、これは当然政策に反映されるべき」と当然考えますが、そう簡単に政策に反映するようにはいかないもので・・・。でも、「政策に反映」は上手くいかなかったとしても、やったことにどういう意味があったのかを考えることが、非常に大事だと思います。そこを考えないと参加する人にも失礼になるでしょう。最終的には、どう社会問題の解決につながったのか、ということを考えなければ。そこまで考えて総括することをせずにやったら自己満足に終わってしまいますよね。

では、WWviewsの目的は一言で言うと何でしょうか?

一言で言うのは難しいですが・・・1点目は、地球温暖化という、複雑な、でも普通の人々の生活に大きく関わってくるようなグローバルな問題に対して、政治家が決定する前に、市民の見解を取り出すために開く大きな社会実験だということですね。2点目は、WWviews開催を企画したデンマーク側としては、もう一歩ふみこんで、COP15に影響力を行使したいとまで言っている。けれど、影響力という点では成功するかどうかわからないです。

このような市民参加型の研究にたずさわるようになった背景には、先生ご自身が理系に進まれた後、科学技術論、科学哲学という専門分野を選ばれたということがあるかと思いますが、どのような経緯があったのでしょうか。

高校生の頃は哲学を研究する文学部か、サルの研究をするような自然人類学のできる理学部のどちらに入るか迷っていました。結果、理学部に入ったのですが、実験科学者養成所のような雰囲気になじまなかったんです。そもそも、口は回るのに、実験は下手だったんです...(笑)。僕の中の理屈っぽい部分と哲学的なものに対する関心を考えて、文学部的なところに戻ろうと思いました。でも、科学技術は気になるし、科学に関して哲学的に考えられるようなところを探し、結果的に東大の科学史・科学哲学の大学院に進みました。全面的に文系でもなければ、理系でもない立場ですが、希少性はありますね。

ご所属の大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(以下、CSCD)で掲げられている「コミュニケーション・デザイン」はどのようなものか少し教えていただけませんか?

CSCDには様々な専門家から成り立っています。僕の専門は科学技術コミュニケーションですが、かつて看護師をしていた女性は医療現場の中でのコミュニケーションなどを扱っています。また、映像制作をしているような人もいます。彼は「映像を撮るとはどういうことかを考える」という極めて哲学的な演習を行っています。 どの講義や演習にも共通していることは、「話せばわかる」ということを安易に前提としないことです。コミュニケーションはもともと不可能に近いということをどのように伝えるかということです。

演習の具体的な例をひとつあげていただけませんか?

例えば、「自分を家電製品にたとえてください」という問いを投げかけた演習がありました。学生は一生懸命考えて、冷蔵庫とかトースターとか言います。けれど、担当していた同僚は、「人間を家電製品にたとえること自体おかしくないか?そのことをだれも言い出さないこと、それこそがおかしくないか。」と言いました。「そんなありえない問いを当たり前に受け入れて、当り前に順応しようと思うことこそ、なにか変だと思わないか」と問いかけるような演習です。このような経験をたくさん持つことによって、そもそもコミュニケーションとは何かを考え直す習慣をつけることを行っています。

実践をしながら経験を蓄積するということでしょうか?

そうですね。実践的な活動を通して、もう一度コミュニケーションがなにかと考えることをねらいとしています。ですから、「teaching」じゃなく「learning」を重視しています。授業では、主に大学院生を対象に行っているのですが、理系と文系を混ぜて行っています。これは、とても大事なことです。同じ大学に学んでいても、理系の大学院生と文系の大学院生はまったくと言っていいほど交流はないし、研究のスタイルもかなり違います。理系とひとくくりに言っても研究室ごとにタコ壺化していますので、それをぶち破って、文系・理系を同じ部屋に集めて、同じテーブルで議論させると、違う見方・アプローチをしているということに気付くわけです。社会に出れば、いろんな人がいる。だれとでもコミュニケーションを取れるような人材にしなければいけないわけです。だから話す練習よりも、自分の感覚はひとつの特殊なものの見方である、別の見方もあるという感覚を持って、人の話を受け入れる謙虚さを持ってほしいんです。ともすれば、自分の見解にこだわって、自分が唯一になって、物の言い方が傲慢になって、そうすると人には通じないってことになりますよね。そうではないということをどうやって経験させるか、気づかせるかっていうことを意識しています。そして、コミュニケーションツールと呼ばれるものに過剰に依存せずに、どうやって伝えるか。だから話すのが上手になるより、聞くのが上手にならないと。コミュニケーションってそういうものでしょ。ある意味恋愛といっしょですね。コミュニケーションは本当に難しい(笑)。

最後に社会技術研究開発センターに今後期待することは何ですか。

いわゆる技術開発を推進するだけでなく、「科学技術と社会の相互作用」研究開発プログラムというような枠組みを積極的に支援する体制を続けて欲しいですね。日本では今後こういう必要性が高まってくるはずですから。日本ではこのセンターくらいしかこういうことに支援できないんですよ。



プロフィール

氏 名: 小林 傳司(こばやし ただし)
現 職: 大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター 教授
経 歴: 京都大学理学部卒業、東京大大学院理学系研究科科学史・科学基礎論専攻博士課程修了。福岡教育大学講師、南山大学文学部教授などを経て現職。著書に『誰が科学技術について考えるのか―コンセンサス会議という実験』(名古屋大学出版会)、『公共のための科学技術』(玉川大学出版部)、『トランスサイエンスの時代』(NTT出版)など。
専 門: 科学技術論、科学哲学