No.5 箱根・小田原で2050年までに80%のCO2削減をめざして


RISTEXの研究開発領域内で活動された研究者や、RISTEXの支援している活動に参加されている研究者を突撃訪問!
論文からは見えない研究の背景や裏話はもちろん、「人」に鋭く迫ります!

亀山秀雄氏(東京農工大学専門職大学院 技術経営研究科 教授)に突撃取材!

今回は「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」研究開発領域から、亀山秀雄先生のご登場です。

3月とはいってもまだまだ寒い日、東京農工大学・小金井キャンパスにある、亀山先生の研究室に突撃訪問! 研究室の入り口では、アルミの表札がキラキラ輝いていました。アルマイト触媒技術を研究されている学生さんからの卒業プレゼントだそうです。


東京農工大学 亀山研究室のある研究棟


研究室入り口で。アルミの表札にご注目!

――まず最初に、プロジェクトについて、わかりやすくご紹介いただけますか?

地球温暖化対策としてCO2削減は重要な課題ですが、これからの時代は「楽しみながら」「地球環境を大事にする」という視点が大切だと思っています。
こで、敢えて「観光地で」「2020年までに(1990年比)25%」「2050年までに80%」CO2を減らすという目標を立て、この目標を達成するためのアクションプランを描き、実行にあたっての課題や問題点を検討しています。
体的な研究対象の観光地として箱根・小田原地区を選んだのは、都心から人々が気軽に行きやすい場所だからです。

――今回の研究の社会的な意義はどんなことにあるとお考えですか。

このプロジェクトのもう一つの狙いは、「地域活性化」です。環境配慮活動と経済活動が連携して持続可能な活動にすることです。環境先進観光地としてのブランド化を行い、地域の活性化に貢献するモデルを提案することです。
とえば観光地には自動車で行くことが多いですよね。でも車をやめて電車など公共の乗り物を使えば、渋滞でイライラせずに発生量を減らせるんです。電車は車の1/10のCO2発生量ですから。
た、箱根は温泉地で「地熱」という天然資源があります。この地の恵みをヒートポンプで有効活用することで重油の利用も減らせます。経済的にもメリットがあります。
根・小田原地区で提案したアクションプランを実行し成功すれば、都心に近い温泉観光地で同じように応用できるでしょう。国の対策として地域活性化とCO2削減にかなり効果があるはずです。

――自動車から公共機関に乗り換えることで、1/10までCO2を減らすというのはすごいことですが、観光に訪れる人にとって簡単なことでしょうか?

車を使う人が多いのは、やはり自動車ならではの利便性があるからで、いきなり公共機関に乗り換えましょう、と言っても変わりません。車の快適性を維持して公共機関への乗り換えを図るにはいろいろな工夫が必要です。そのための戦略をいろいろ考えています。
た、今の観光地は自動車で行くのが前提になってしまっていますが、電車で行っても楽しめるように、地域で観光のやり方を変えていくことが必要です。地域との連携、地域の協力なしにはこのプロジェクトはうまく進みません。


プロジェクトに関わる主な関係者

――いろいろな立場の大勢の方が関わる壮大なプロジェクトですね。

そうですね。ものすごく多様な人が関係しています。交通機関・旅館・お店・・・いろいろな立場の人に私たちのプロジェクトについて理解してもらい、気持ちを束ねていくのはとても大変です。
ロジェクトの最終目的はCO2の削減ですが、地域の人と連携するためには、地域の人が納得するようなストーリーを考える必要があります。このような研究は、今までのやり方ではとてもうまくいきません。研究室で一人で実験をやって結果を出して論文を書くというのとは全く違いますね(笑)。

――地域の方が納得するようなストーリー・・・

初めの頃、「CO2削減じゃオレたち食っていけないよ」とストレートに言われました(笑)。生活に直接関係ある提案じゃないと納得できないよ、と。ショックでしたが、地元に適した提案をして地域の人たちがどう考えるかを検証する、ということが大事で、一般論で言ってもだめなんだと教えられました。

亀山先生1

――地域の方にはどのように説明されたのですか?

「ロジックモデル」という手法を使いました。10年後に地域がありたい姿をまず考え、10年後にそうあるために、5年後にどういう状態になっていなくてはならないか。さらに5年後にそうあるために、現在の活動の成果がどんなものであるべきか、今自分たちが何をやらなくてはいけないかを明らかにします。

プロジェクトで用いたロジックモデル
プロジェクトで用いたロジックモデル
(クリックすると拡大します)

箱根・小田原地区の場合は、10年後に「環境先進観光地」となることを目指しています。
ちろん構想をきちんと練り、今自分たちが持っている資源を把握し、戦略的な計画を立てます。そして、活動の内容や達成したいと思っている変化や成果について検証し、ストーリーを具体的に描いて見えるようにしたところ、大きな反響があり、共鳴してくれる人がたくさん出てきました。
ロジックモデル」という考え方は日本であまり普及していないのですが、言葉で伝えてもなかなか理解してもらえないことを絵にすることで得られる共感や、予想以上の影響力の大きさに驚きました。

――まさしく「百聞は一見に如かず」ですね。

地域で継続的にシンポジウム等を開き、私たちがやろうとしていることをきちんと伝えるということも大切にしました。昨年は箱根で2回、小田原で1回、シンポジウムを開催しました。神奈川県や小田原市、箱根町が「後援」という形で入ってくれたのはありがたかったです。おかげで関心の高い人が集まってきてくれました。
年の4月ごろには地域の市民に主催を移し、「市民会議」という形で開催することも計画しています。

――ネットワークを作るのには相当なご苦労があったのではないでしょうか。

確かに大変ではありましたね。ただ、一度心の扉を開いて活動に共感してもらえれば、輪は広がっていきます。
えばシンポジウムに旅館の若主人が何人か参加していたんですね。面識ができたので、次に箱根に調査に行ったときその主人の宿に泊まり、夜、いろいろと話をしました。一度信頼関係ができたら、次の日からはその若主人が核になって他の旅館に話を通してくれるようになって。
間はかかりましたが旅館組合がまとまってきて、困っていることをどんどん相談してくれるようになり、それに対してこちらが持っている補助金制度などの情報やソリューションを提供することで、どんどん実現に近づいていく。今、箱根の旅館組合ではヒートポンプ導入に向けての話し合いがもたれています。

――ヒートポンプとはどんなものですか?

源泉から遠い旅館は、お湯が途中で冷めてしまうので、お湯を温め直すのに重油を使っているんです。追いだきに箱根の地熱を利用したヒートポンプを使えば、重油を使わなくて済み、CO2削減にも貢献します。ヒートポンプは5年くらいで減価償却でき重油代が不要になるのでメリットは大きいのですが、初期投資が2000~5000万円くらいかかるので飛びつきにくいのです。
ころが実は国がヒートポンプの導入を奨励しているので、地域でまとまって申請して認められれば、半額補助してもらえるんです。これは大きいでしょう? 国の支援策を中小企業の人はほとんど知らないんです。これからキャンペーンや市民会議をやって、地域から導入申請をしていきたいと考えています。

――研究テーマの一つである「エコポイント制度」とはどのようなものですか?

CO2削減量を目で見えるようにすることと、CO2を削減する行動をした人が報われるような仕組みを作ることが目的です。自動車でなく公共交通を利用したり、ヒートポンプを導入した旅館に泊まると、CO2削減に貢献したということで、通帳にエコポイントが貯まる。それをおみやげ屋さんでお金の代わりに使うことができるというシステムです。実現すれば人々のCO2排出量への関心がより高まりますし、メリットがあるので削減に努力をしてくれるようになると思います。

――小田原市ではどのような活動をされているのですか。

実は小田原と箱根は近いのにあまりつながりがないんです。小田原は地産地消、箱根は観光が中心で、お互いにあまり関心を持っておらず、住み分けていたという感じです。
回のプロジェクトを通して箱根と小田原がうまく連携し、お客さんも両方のメリットを得られ楽しめるといいな、と思っています。
えばお客さんには小田原まで車で来てもらってもいいと思うんです。小田原に広い駐車場を作って車を停め、箱根には電気自動車など公共交通を使って行ってもらう。渋滞が緩和できるし、おみやげはお客さんが小田原に戻ったときあらかじめ注文しておいた新鮮な魚や野菜をパックにして駐車場に届けるというようなサービスがあればいいなと。小田原にも箱根にもメリットがあり、お客さんは両方を楽しめる。この企画も地域の企業や自治体を中心に、徐々に進んでいます。

――一緒に活動された研究スタッフの方についてお聞かせください。

プロジェクトの核となっているのは、野地さんです。企業に在籍しながら博士課程で勉強しています。コンセプトの立案から現地調査まで、全てのイベントに参加しています。
た佐藤くん、中山くん、林くんの若手3人の頑張りも大きく、一人が欠けてもプロジェクトは進みません。

佐藤くんはみんなで出し合ったアイディアをどんどん形にしていってくれました。今年の3月に卒業してプロジェクトを離れてしまうのが残念です(笑)。

中山くんはシステムに強く、HPやエコポイントについて学べる体験環境ゲームなどを制作しています。
非プロジェクトのHPに遊びに来てください。  http://hope80.jp/

林くんはヒートポンプの担当で、電力会社や地域の人たちとの交渉を一手に引き受けています。

このプロジェクトは野地さんがすごい信念を持って推進しています。野地さんのような人がいるからプロジェクトが上手く回っている。ミッションを持つ人がいるということは本当に大事です。

箱根旧街道にて。左から野地さん、林さん、中山さん

箱根旧街道にて。
左から野地さん、林さん、中山さん

芦ノ湖海賊船にて。左から佐藤さん、野地さん、中山さん

芦ノ湖海賊船にて。
左から佐藤さん、野地さん、中山さん

――このプロジェクトを進めるにあたって、新しい発見や驚いたことはありましたか?

今回のプロジェクトは東京農工大学のMOT(Management of Technology、技術経営)と早稲田大学の根来先生のMBAのグループが連携して始めました。従来MOTはMBAでできないものをカバーするという意識があり、MBAは自分はマネジメントのプロだという意識があるのであまり融合してこなかったんですね。ですが、実際にプロジェクトで連携すると、MOTはヒートポンプとか電気自動車とかハードにこだわった提案を出すことが多く、MBAはネットワークを上手くつくってどう持続させるかというビジネスモデルのようなソフト的なところに力を入れる。MOTとMBAの融合は面白いな、と感じました。
分野の学問の融合は確かに大変ですが、自分たちのフィールドの中だけでなく、箱根・小田原という具体的で複雑な現場を通して見ると、よく理解できます。例えば「囲い込み理論」と概念で言われてもよくわからないけど、現場で言うと会員制度をつくってメリット感を出し徐々に組織を広げていくということなんですね。お互いの持ち味を生かして融合すると新しいものが生まれてくる感じがしますね。

――今後やりたいことはありますか?

このプロジェクトの提言を箱根・小田原で実現し、成功させるのが第一歩ですが、このモデルは都心に近いところに位置している全国の温泉観光地で応用できるので、先々は他の地域に展開していきたいと考えています。
域の特性に応じて修正は必要ですが、ほとんどの部分は使える。そうすると、全国でやり方を指導できるコンサルタントが必要になる。このプロジェクトの実施段階では指導者を育てることも成果の一つとして考えようと思っています。



プロフィール

亀山先生2



氏 名: 亀山 秀雄(かめやま ひでお)
経 歴: (株)アルマイト触媒研究所取締役、東京農工大学産官学連携・知的財産センター副センター長、ベンチャービジネスラボラトリー長、農工大ティー・エル・オー取締役、化学工学会理事、化学工学会情報サービスセンター長、化学工学会エネルギー部会長、水素エネルギー協会理事を経て、現在は国立大学法人 東京農工大学 教授、工学博士 専門職大学院技術経営研究科技術リスクメネジメント専攻 研究科長、工学研究科応用化学専攻 兼務 NEDO技術委員、国際P2M学会理事、MOT学会理事、水素エネルギー協会副会長。
専 門: 化学工学、反応工学、触媒工学、エネルギー化学工学
血液型: A型
星 座: 魚座

リラックスタイム

――先生が研究の道に進まれたきっかけを教えてください。

大学生の時に、指導教官だった藤田重文先生から「商人の子は学者に向いているんだよ」と言われたことでしょうか。それまでは卒業したら就職しようと思っていたんですよ。先生は私の父が商人だったのをご存じだったので、あ、誉められたのかな、と(笑)。
は時計屋で、毎日お店を開け、お客さんと応対して、時計を預かり、修理してまた返すというのを日常的にやっていた。お店の運営を全部自前の精神で行っている。学者というのは人真似じゃだめだ。自分で店を開いて自分で全部やるという気構えがないといけない、と言われたことが、研究者を志すきっかけだったかもしれません。

亀山先生3

子ども時代は遊んでばかりいて、出来の悪い子どもでした(笑)。 ところが中学生の時にちょっと頑張ったら成績が上がり、担任の矢野美佐子先生に職員室に呼ばれ、両手を握られて「亀山さん、頑張りましたね」とほめられた。それが目からウロコでした。頑張れば良いことがあるんだなと(笑)。

――研究に行き詰ったときや、仕事の息抜きなど、気分転換には何をしていますか?

研究に息詰まったら、ちょっと置いておくことにしています。寝かせておくうちに状況が変わって、何もしないのに好転することが今までに何回もあったからです。
き詰っていると思っていた考え方そのものが解氷されて、視点が変わるのかもしれませんね。また、他の人との連携を考えると思わぬ示唆があることもあります。
抜きとして特にやっていることはあまりないですが、昔から座禅をやっています。禅の本を読んだり、無心になるような時間を作ったり。自宅でやります。簡単ですよ。

――研究を行う上でのモットーや座右の銘があれば教えてください。

モットーは、ミッションをしっかり持つということ。例えばこのプロジェクトのミッションは、CO2を削減して、社会に具体的な貢献をするということです。
は燃料電池の研究もしていますが、燃料電池は今とても値段が高い。素材がプラチナだからです。現在700万円くらいするのを50万円まで下げたいと思い、炭素と鉄で触媒を作る研究を行っています。何としても大学でやりたいんです。社会に役立つことを大学で、研究室でやっていこうというミッションです。
右の銘は「日日是好日」です。一日一日ベストを尽くして、良かったと思えるようにしたい。毎日を大切に生きるということです。

――最後にこのWEBを見ていらっしゃる若手研究者へのメッセージをお願いします。

自分のミッションを早く見つけて邁進してほしいですね。今こうしよう、と思うミッションを見つけたら、躊躇せずに取り組んでほしいです。途中でやめたり変更したりしたって別にいいんです。自分が10年後、20年後にどうありたいか、そのために今何をすべきか、という見通しをつけて、自分の道を進んで行ってほしいと思います。


取材を終えて

あっという間の1時間半、とても楽しくお話を伺いました。 穏やかな口調の中に、このプロジェクトや研究に対する熱い思いが込められているのをヒシヒシと感じることができました。
話の中で「ミッション」という言葉が何度か登場しました。ミッションのある人は困難に遭っても信じる道を進み続けることができるが、その人のやり方を真似ただけの人は困難にぶつかると挫折してしまう。だからある場所で成功しても、次の場所で成功するとは限らない。次の場所でも成功させるためには、ノウハウをきちんと伝えていくことはもちろんだが、同時に最初に成功した人たちが持っていたミッションを伝えていくことが大事だ、という言葉が印象的でした。


TEXT:RISTEX広報 すもも
PHOTO:RISTEX「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」研究開発領域事務局 こもも