サイエンスアゴラ2016 公開シンポジウム 開催報告

サイエンスアゴラ2016 キーノートセッション3 開催報告
うちの子、少し違うかも・・・~発達障害に対する適切な療育・支援のための研究開発~

開催概要

  日時:2016年11月5日(土)12:45~14:45
  会場:日本科学未来館7階 未来館ホール
  企画提供:科学技術振興機構 社会技術研究開発センター

登壇者

  • 神尾 陽子 国立精神・神経医療研究センター 児童・思春期精神保健研究部 部長(講演、パネリスト)
  • 船曳 康子 京都大学大学院人間・環境学研究科 総合人間学部 准教授(講演、パネリスト)
  • 山野 則子 大阪府立大学地域保健学域教育福祉学類/人間社会システム科学研究科 教授、大阪府立大学スクールソーシャルワーク評価支援研究所 所長 (講演、パネリスト)
  • 山﨑 順子 東京都発達障害者支援センター センター長(パネリスト)
  • 熊 仁美  特定非営利活動法人ADDS 共同代表(モデレーター)

企画の意図

落ち着きがない、こだわりが強い、人見知りが激しいなどで子育てが難しいと感じられる子どもに発達障害があると診断されることがあります。しかし、発達障害は早期に発見し適切な療育を行うことで子どもの将来の可能性が広がり、周囲の支援によりご家族の困難を軽減することが期待できます。
JST社会技術研究開発センターでは、発達障害に関する研究開発や、その成果の普及・実装活動を支援してきました。本シンポジウムでは、そんな支援プロジェクトの中で活動してこられた研究者からの最新の研究報告と、有識者によるパネルディスカッション、そして来場者の皆さんとの対話を通じて、発達障害の早期発見、療育、ご家族への支援の大切さに対する理解を深めることを狙いとしました。

内容

子どもの発達障害と学校現場における課題を知る

セッション前半では、国立精神・神経医療研究センター児童・思春期精神保健研究部の神尾陽子氏、京都大学大学院人間・環境学研究科の船曳康子氏、大阪府立大学地域保健学域/人間社会システム科学研究科および同大学スクールソーシャルワーク評価支援研究所の山野則子氏の3名に、子どもの発達障害や、学校で発生する諸問題へのアプローチについてご講演いただきました。


[講演1]一人ひとりの発達特性にあった子育てとそれを支える地域社会

神尾氏は、発達障害の一つである自閉症スペクトラム(ADS)の診断数が近年増加傾向にあることに触れつつ、「『対人コミュニケーションが難しい』『こだわりが強い』などの特徴は、別の見方をすると『裏表がない』『人をだまそうとしない』『行動が予測できる』『きっちりしている』といった長所にもなる」と語りました。また、ご自身の研究において「全国の児童を対象とした調査を行った結果、自閉症的行動特性は一部の子どものみが有するものではなく、強さに違いはあるものの、自閉症的特徴を持つ子どもは多いことが分かった」と説明しました。加えて、「言語を習得する前の乳児期の社会的行動(指さし追従など)に注意を払うことで将来発達障害を持つ可能性を捉えることができ、早期支援につながる。また、発達障害を治す、ということではなく、特性を理解してその子どもに合った対応を考えることが支援につながる」と語りました。


[講演2]MSPA(Multi-dimensional Scale for PDD and ADHD)による発達特性の理解と今後

続いての講演者である船曳氏は、「発達障害はさまざまな診断の組み合わせであり、行動特性には多様な個人差がある」と述べ、「各個人の特性をレーダーチャート式に可視化するMSPA(Multi-dimensional Scale for PDD and ADHD)という評価ツールを開発した」と説明しました。「特性と程度を可視化することにより、日常のどういった場面でどのような支援が必要か分かるとともに、医療機関の予約から診察まで半年から1年かかるともいわれる現状において、待機期間であっても適切な支援が受けられることにもつながる」と述べました。また、船曳氏は「ライフステージごとの発達障害による課題は異なる」と説明しました。そして、「治らないものを無理に治そうとする、あるいは治せるものを放置した結果は、メンタルヘルスの悪化や就労問題といった二次障害の可能性にもつながる」と指摘し、「治すと付き合うのバランスが重要」と語りました。


[講演3]発達障害を抱える児童・生徒の学校における支援と課題~スクールソーシャルワークの視点から~

最後の講演者である山野氏からは、多くの保護者が関心を寄せる、学校という場での発達の課題に起因する問題などについて、スクールソーシャルワーカー(SSW)の視点からご講演をいただきました。「学校における特別支援教育の体制は年々整備されつつあるものの、外部の専門家チームとの連携はこれからの課題と指摘し、多様な機関の連携による支援体制が導入されている幼児期に比べ、就学期の児童に対する仕組みが十分でない」と語りました。「不登校や保護者から学校へのクレームといった行為の陰に実は発達に関連する課題が隠れているケースもある」と述べるとともに、発達障害を持つ子どもを抱える保護者の苦労や経緯を、学校が理解することの重要性を説きました。


パネルディスカッション 発達障害の子供たちと家族を守るために

講演者3名によるプレゼンテーションの後、神尾氏、船曳氏、山野氏の3名に加え、東京都発達障害者支援センターの山﨑順子氏がパネリストとして登壇、ADDSの熊仁美氏の進行でパネルディスカッションが行われました。パネルディスカッション冒頭では、山﨑氏、熊氏が自己紹介を兼ねた話題提供を行い、まず山﨑氏から、発達障害を持つ本人だけでなくそのご家族への支援の重要性が指摘されました。また、熊氏からは科学的なエビデンスに基づく療育の普及に向けた活動についてお話をいただきました。


パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子
アットホームな雰囲気の中でパネリストの皆さんから熱いご意見をたくさんいただきました。


[テーマ1]早期診断

パネルディスカッションの最初のテーマでは、発達障害の早期診断やその後の療育について語られました。山﨑氏は、「発達障害はさまざまな特性があることから、確定診断が難しいという実態がある。しかし、支援は必要。支援を行っていく中で特性が把握され、診断につながっていくと良いと考えている」と述べました。また、「『発達障害』という言葉が与えるイメージへの抵抗感から支援のきっかけを逃している人もいる」と、呼称が与える影響への懸念を示しました。神尾氏は、「医療に関わる立場から、早期診断を受ける患者数は年々増えているものの、診断や治療を担う専門医療機関と日常的な支援を行う機関との連携という点では、まだ大きな課題がある。研究、臨床、実践、それぞれの質がこれだけ上がってきているにもかかわらず、社会の仕組みが、制度の枠を超えた取り組みをサポートできる体制になっていない」と指摘しました。「過去に研究者が発見したエビデンスを眠らせず、政策への反映に生かしてほしい」とも語りました。船曳氏は、「発達障害」という呼称に対する山﨑氏の懸念に触れながら、「『発達障害』という呼称ではなく、もう少し柔らかい言い方・表現を使うようにしていってはどうか」と提案しました。山野氏は、「スクールソーシャルワーカー(SSW)は直接の診断は行えないが、学校で気にかかる子どもについての見立てを教員とともに行い、保護者への支援機関の紹介など、必要な人や機関を巻き込みながら進めていくための調整を担っている」と述べ、こういった活動の中で診断につながるケースがあると説明しました。また、山﨑氏は、「診断の目的は適切な支援を受けるためのものであるが、就学前の児童については福祉の制度として、診断がつくまでの間でも支援を受ける体制が整ってきているので、気になることがあれば近くの専門機関や保育士さんにぜひ相談していただきたい」と呼びかけました。


[テーマ2]療育・ご家族への支援

冒頭、山﨑氏から、保護者の苦労、特に日常生活における負担を理解することの重要性が指摘されました。「地域の中でそうした視点からの支援をどのように実現するのか、専門機関の対応だけでなく、発達障害への理解を促す近隣住民など周囲の人たちに対する啓発・啓蒙活動も、家族支援としては重要」と語りました。山野氏からは、SSWが家族に対して行う支援として、発達障害を持つ子どもの親の会や信頼できる医療機関の紹介に加えて、必要があればそうした団体・機関へ同行するといった活動が紹介されました。また、船曳氏はこれまでの経験から、「保護者・家族への支援として重要なのは、①子どもの将来に対する見通しを伝え、②保護者の孤立を防ぎ、③ソーシャルワークによる客観的かつ適切な情報を提供することである」と述べました。神尾氏は、育児相談の段階で乳児の睡眠特性から発達障害を発見できる可能性があるという事例を紹介しながら、「育児相談や健康診断などの一般的なサービスにおいて、発達障害の発見や支援につなげる仕掛けも考えられる」と説明し、「『エビデンスのあるアセスメント、エビデンスのある支援』の普及」を訴えました。


[フロアとの対話]

最後に限られた時間ではありましたが、会場からのリアルな質問に対し、パネリストの皆さんから熱のこもった回答をいただき、盛況のうちに閉会となりました。


フロアとの対話の様子
フロアとの対話の様子
多くの方から挙手をいただきました。


まとめ

本セッションでは、子どもの発達障害の早期発見や療育に焦点を当てながら、科学的なエビデンスに基づいた支援の重要性が議論されました。講演およびパネルディスカッションでも指摘があったように、発達障害はライフステージによって問題の現れ方が変化することから、早期発見、療育とともに、長期的な支援につなげる体制づくりの重要性も示唆されました。また、医療、福祉、教育などの現場の取り組みだけでなく、社会全体の制度改革の必要性や、社会の一員である私たち一人ひとりの理解や受容性の大切さも浮き彫りとなりました。問題の解決や支援に取り組む人々と科学的なエビデンスを明らかにする研究者とが、協働して取り組む重要性と可能性を改めて感じるセッションとなりました。