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研究開発プロジェクト紹介

科学技術情報ハブとしてのサイエンス・メディア・センター(*1)の構築

研究代表者:瀬川 至朗(早稲田大学 政治経済学術院 教授)


プロジェクトについて

現代のニュースは、そのほとんどが科学技術の要素を含んでいます。ところが、正確な科学技術情報を無視したニュースが流通してしまい、かえって問題が複雑になることがしばしばあります。
 科学技術が関係するニュースが作られる過程では、専門研究者とメディアの交流や意思疎通が円滑に進むことが大切です(このメディアとは、継続的に科学を伝えている市民も含みます)。しかし、これまでの両者の関係は必ずしも順調とはいえませんでした。そこで、私たちは両者の間を結ぶハブ(拠点)となる<サイエンス・メディア・センター(SMC)>という組織をつくり、運営することに取り組んでいきます。
 SMCは「科学を伝える人を支援する」ことをミッションに掲げます。具体的には次のような活動をします:(1)科学技術の要素を含むニュースについて、素早く専門家のコメントを収集し、メディアに提供します (2)地域における科学情報発信のネットワーク作りなどを支援します (3)研究者とメディア関係者が、互いをより理解するための機会を提供します (4)科学技術をより魅力的に伝えるための人材(イラストレーターやデザイナーなど)を紹介します (5)お茶の間に科学技術の情報を届けるため、インターネット放送等をおこないます。
 こうした活動を通じて、科学技術の情報が正確に、かつ魅力的に伝わることにより、社会のなかで科学技術が適切に議論されるようになっていく。これが私たちのプロジェクトの目標です。


※1 サイエンス・メディア・センター(SMC)
 英国で2001年に設立され、社会に流通する科学技術情報の質を高めることに成功したことから、現在ではオーストラリア、ニュージーランド、カナダでも開設・運用されている組織(インドやデンマークなどでも準備中)。SMCJは、これら他国のSMCに学びつつ、日本に適した組織として構築するとともに、他国のSMCとも連動し、国際的な科学技術情報のメディア流通に貢献する予定である。

プロジェクト関連WEBサイト


研究開発実施報告書

平成21年度の研究開発プロジェクト採択以降、毎年度、研究開発実施報告書を掲載しています。

http://www.ristex.jp/examin/science/interaction/index.html#h21


終了したイベント

サイエンス・メディア・センター シンポジウム
「3年目の危機をどう乗り越えるか」助成終了後をみすえてのファンドレイジング

日時:平成23年7月8日(金) 13:00-15:30

場所:早稲田大学

詳細:http://smc-japan.org/?p=857

【本シンポジウムは東日本大震災のため延期としていましたが、再度開催が決定しました】


サイエンス・メディア・センター スタートアップ・シンポジウム

日時:平成22年11月26日 18:15-20:30

場所:早稲田大学 大隈小講堂

詳細:http://smc-japan.org/?p=403

イベント開催報告:http://www.ristex.jp/science/event/report.html#8


特別ワークショップ「国際広報を考える」

日時:平成22年11月25日 13:00-17:00

場所:早稲田大学3号館103号室(予定)

詳細:http://smc-japan.org/?p=380

イベント開催報告:http://www.ristex.jp/science/event/report.html#7


プロジェクトの概要

プロジェクトの目標

気候変動、食の安全、ネット社会、新型インフルエンザ・・・。今日、私たちが見聞きするニュースは、その多くが科学技術の要素を含んでいます。

グローバル化し、科学技術と社会が複雑に関係する時代の中で、市民は賢明な選択を求められます。専門研究者やジャーナリストは、メディアを通じて、科学技術に関連した情報を適切に市民に提示していく必要があります。これをメディアの「アジェンダ(*2)構築機能」と呼ぶことにします。「社会の中の重要な争点を発見し、それを公共的な意見形成のアジェンダ(議題)として伝えていく働き」です。けれども、このアジェンダ構築は果たして機能してきたのでしょうか。残念ながら答えはノーです。

2009年4月に始まった新型インフルエンザH1N1の世界的流行に際して、日本の新聞やテレビは、「マスク狂騒報道」といえる報道をおこない、マスクの在庫がたちまち底をつくパニックを生みました。

この問題で取材を受けた医療関係者に話を聞くと、悪いのはメディアの側だと言います。「意図したこととは異なることを報道された」「報道は科学的議論の成果を踏まえていない」と。一方のメディア関係者は、「専門家が語る様々な意見のどれが正しいか分からない」「研究者の議論はわかりにくい」と指摘します。研究者の情報が専門的、断片的すぎるため、「今議論すべき問題の枠組み」を適切なかたちで提示できないのだと嘆きます。

新型インフルエンザだけではありません。科学技術に関連したアジェンダ構築に向けたこれまでの試みは、研究者とメディアの相互リテラシーの不足による、すれ違いの歴史だったといっても過言ではありません。

この研究開発プロジェクトは、科学技術の専門家と多様なメディア (*3)をつなぐ「サイエンス・メディア・センター・オブ・ジャパン(SMCJ)」を設立・運営することで、科学技術とメディアの相互理解の場をつくることを目指します。また、科学技術コミュニティ内の議論を整理して議論の素材を適切に提供することで、メディアに流通する情報の質を高め、社会におけるアジェンダ構築を支援していきます。

(*2)アジェンダ
 Agendaの語源は、ラテン語のagendum(なされるべきこと)。日常的には、「議題」「協議事項」「検討課題」「議事日程」「予定表」「行動計画」など多面的に用いられる。マス・コミュニケーション研究の分野では、「アジェンダ」は、社会や市民が議論すべき「議題」あるいは「検討課題」といった意味になる。用法としては「メディアのアジェンダ設定」などがある。これに対し、1992年の地球サミットで採択された「アジェンダ21」のアジェンダは、地球環境を保全するための「行動計画」という意味である。

(*3)多様なメディア
インターネットの発達は、研究者や市民が主体的に情報を発信する道を開いた。本プロジェクトにおいては、単に「メディア」として表記する場合は、伝統的なマス・メディアだけではなく、インターネット上のブロガーなど「継続的に科学技術報道を行っている媒体・個人」の総体として定義している。SMCJは広くメディアに開かれた組織として活動する予定である。

図1 専門家(研究者)――メディア関与者の関係改善に向けた取り組み
図1 専門家(研究者)――メディア関与者の関係改善に向けた取り組み

プロジェクトの構想

これまでの科学技術と社会、そしてメディアに関する多くの研究からは、メディアが果たすべきアジェンダ構築の過程とは、次のようにまとめることができると思われます:
科学技術コミュニティ内部における「証拠に基づいた」議論の状況を、メディアが解説・批評を加えつつ一般社会に対して提示する。その情報提供によって生じる社会的議論の結果をメディアが社会から抽出し、再び研究コミュニティを含む社会全体に対してフィードバックする。

このアジェンダ構築機能を支援するため、SMCJは、研究者とメディア双方の人的・情報的交流を促進する、次のような社会技術を開発し運用する予定です(2010年夏に試験運用開始予定):

メディアに対する研究者/広報担当者の紹介
メディアに対する科学技術トピックス関連のニューズルーム機能の提供
研究者/広報担当者に対するメディアの紹介
人的交流の促進

・研究者に対するメディア・トレーニング・プログラム (*4)の提供
・人材交流プログラム(インターンシップ (*5)、ジャーナリスト・イン・レジデンス (*6))の実施

Webによる情報提供

(1)に関して言えば、SMCJは、特に地方ジャーナリストや科学技術を専門としないジャーナリストを対象に、科学界の議論の要点をまとめ、議論の中心にいる研究者や適切に語ることのできる研究者を紹介する機能を果たしていく予定です。

SMCJのスタッフは当面4名(専任2名、非常勤2名)を計画しています。本体は小世帯だが、相互リテラシーが高い人々(研究者、ジャーナリスト、広報担当者など)で構成される「外部諮問パネル」という緊密な人的ネットワークをつくりだすことで、効率的運用を目指します。また、可能な限り中立的な機関であることを目指し、早期のNPO(非営利組織)化を念頭にいれて組織構築に取り組む方針です。

SMCJが目指す機能が真に実現されれば、科学技術が関連するテーマにおいて、メディアの適切なアジェンダ構築機能が発揮され、市民が賢明な選択・判断をおこなうことが可能になる時代が来ると考えています。

(*4)メディア・トレーニング・プログラム(MTP)
 研究者のメディア理解を助け、同時に「研究者が社会に向けて語る」技法を修得するプログラム。本プロジェクトでは、研究参加者の協力のもと、短期集中型のMTPを開発する予定である。

(*5)インターンシップ
 研究者に対して、短期間のメディア企業への実習機会を提供する。これにより、研究者のメディア・リテラシー向上、表現力の増加が期待される。

(*6)ジャーナリスト・イン・レジデンス(JIR)
 ジャーナリストに、研究所などに長期滞在して取材する機会を提供する。これにより、より深くまた紋切り型でない記事の作成が期待される。