「脳科学と教育」シンポジウム開催報告

「脳科学と社会」の領域シンポジウム 「脳科学と教育」タイプⅡの、平成16年度採択課題研究終了報告を行いました。





「脳科学と社会」領域シンポジウム 「脳科学と教育」タイプⅡ
-平成16年度採択課題研究終了報告-

日時:2009年12月9日(水) 10:00-17:00
会場:文京シビックセンター小ホール(東京都文京区)

今回のシンポジウムは、RISTEX(社会技術研究開発センター)の「脳科学と社会」研究開発領域において、今年度研究終了を迎える6つのプロジェクトの研究成果の発表の場として開催しました。師走に入り忙しいなか、たくさんの方にご参加いただき、会場は大盛況。寒い日でしたが、会場内は熱気にあふれていました。


会場の文京シビックセンター小ホール


多くの方にご来場いただきました


小泉英明氏開会挨拶をする領域総括:小泉英明氏
(株式会社日立製作所 役員待遇フェロー)

領域総括・小泉英明氏による開会挨拶では、脳科学の研究には欧米・アジアも注力しつつあるなか、日本(RISTEX)で早いうちからこの領域に取り組んできたこと、また脳科学の研究には領域架橋(領域を広くまたがること)が必要であると強調されました。


小林登氏前半の座長は領域アドバイザーの小林登氏
(東京大学 名誉教授/子どもの虹情報研修センター センター長)

その後、領域アドバイザーである小林登座長の進行のもと、各プロジェクトの代表者からの研究成果発表が始まりました。今回の特徴は、発表された6プロジェクト全てがコホート研究を行ったということです。コホート研究とは大勢の人を長期にわたって追跡調査するもので、たくさんの人やたくさんの機関の協力をいただいて初めて成り立ちます。もちろんお金もかかりますし、準備から調査・分析には長い長い時間が必要です。その意味では一つひとつが壮大なスケールのプロジェクトであり、コホート研究を行うことで初めて発見できたことや、検証できた仮説も数多く発表されました。当日発表された内容を、ごく一部にはなりますがご紹介します。


神尾陽子氏
(国立精神・神経センター 精神保健研究所 児童思春期精神保健部 部長)

最初に発表したのは、神尾陽子氏。「社会性の発達メカニズムの解明:自閉症スペクトラムと定型発達のコホート研究」プロジェクトでは、自治体と共同で1歳6カ月児健診受診者にスクリーニングを行い、ごく早期のうちに社会的発達が通常と異なる子どもたちを発見・支援するシステムを開発・導入しました。自閉症スペクトラムの確定診断は現状では3歳を過ぎないとできませんが、より早く発見し適切な支援を行うことは、幼い子どもの社会的発達を促し、社会的発達の問題から生じるさまざまな行動の問題の予防につながり、自閉症スペクトラムにある本人やその家族、そして社会にとって大きなメリットとなります。「特殊から一般へ」というキーワードが印象に残るご発表でした。


安藤寿康氏
(慶応義塾大学 文学部 教授)

2番目の発表は、安藤寿康氏。「双生児法による乳児・幼児の発育縦断研究」プロジェクトでは、4年半にわたり「ふたご」のコホート研究を行いました。「東京、埼玉、千葉、神奈川のほとんどすべての自治体に足を運び、住民基本台帳から双生児をピックアップして協力を呼びかけ」、参加した双生児は1600組以上。研究者の熱意が光る壮大なスケールのコホート研究です。「子どもの心身の発達を決めるのは、遺伝なのか、環境なのか」という身近なテーマを、DNA情報が全く同じである一卵性双生児と、半分同じである二卵性双生児の発達を追跡調査することで科学的に解明し、多くの新しい知見が発表されました。


主催者挨拶を行う有本建男
(社会技術研究開発センター長)

昼食休憩後、有本建男・社会技術研究開発センター長による主催者挨拶により再開しました。場内は空いている座席を探すのも大変なほどでした。


川島隆太氏
(東北大学 加齢医学研究所 教授)

3番目の発表は、川島隆太氏。「高齢者と学習障害の脳機能改善コホート研究」プロジェクトでは、健常な高齢者と学習障害を持つ子どもの2つの層に対して研究を行いました。自治体が適切に介入することで、健常な高齢者が今後も心身ともに健やかな生活を維持・向上できること、また軽度の認知障害が疑われる高齢者では83.9%の人に改善がみられ、うち66.1%の人は「正常」レベルにまで回復することがわかりました。この研究によって開発された技術はすでに 284の自治体に採用されています。また、学習障害児に関する研究でも、小学生から中学生まで126名の対象児の協力を得て、さまざまな新しい発見が報告されました。


後半の座長は領域アドバイザーの青木清氏
(人間総合科学大学 教授/上智大学 名誉教授)

ここで座長が交代。後半の座長は、同じく領域アドバイザーの青木清氏です。


萩原裕子氏
(首都大学東京 大学院人文科学研究科 教授)

4番目の発表は、萩原裕子氏。「言語の発達・脳の成長・言語教育に関する統合的研究」プロジェクトでは、母語(日本語)と非母語(英語)を子どもがどのように習得していくのかを機械を用いて計測し、解明しました。学校に出向いて計測を行うため、ピンクの脳機能測定車が登場。たくさんの電極のついた測定装置は子どもたちに大人気で、参加定着率がとても高かったそうです。その結果、非母語学習の時の脳の反応は母語の反応と同じプロセスをたどることや、言語を司ると言われる左半球だけでなく右半球も強く関与していることなど、新しい発見がたくさん報告されました。


六反一仁氏
(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 教授)

コーヒーブレイクをはさみ、5番目の発表は、六反一仁氏。「教育支援のためのバイオメンタル技術の開発」プロジェクトでは、医大生のコホート集団のなかから一定数発生する心の疾患の原因解明や診断技術を開発しました。血液からストレス反応を評価するDNAチップを制作、定期試験後や学位論文発表直後(急性ストレス)、人体解剖(心理+身体ストレス)、医師国家試験前(慢性ストレス)の学生に採血を実施。また、アンケートによる環境要因との相関性を解析しました。うつ状態となり学校に来なくなった学生に協力を呼びかけるというような難問を抱えながら、診断マーカーの同定などの社会技術が多数報告されました。


渡辺恭良氏
(理化学研究所分子イメージング科学研究センター センター長 大阪市立大学大学院 医学研究科 教授)

最後の発表者は渡辺恭良氏。「非侵襲的脳機能計測を用いた意欲の脳内機序と学習効率に関するコホート研究」という難しい題名ですが、「学習意欲」を脳科学的に解明するという、一般の方にも大変興味深い研究です。日本の子どもの学習意欲は諸外国との比較調査で、なんと最下位に近いのだとか。学習意欲の低下には疲労が深く関わっていること、疲労を訴える生徒を早期発見し適切に対処することにより学習意欲が改善できること、生活習慣や家庭環境(家族とのふれあい)なども学習意欲と深く関わっていることが今回のコホート研究により実証されました。また、学習意欲の低下と、認知機能のうちとくに注意配分機能の発達不良が良く相関することが判明し、これに関わる脳機構もわかってきました。今後教育現場や家庭への働きかけなど、社会で実用化できる技術に発展していくことが望まれます。


閉会後も熱のこもったご質問や議論がつづきました

それぞれ約45分のプレゼンテーションと15分の質疑応答で進められましたが、会場からは質問やコメントを多数いただき、熱のこもった議論がなされました。篠崎資志・社会技術研究開発センター 企画運営室室長の閉会挨拶により、長時間にわたったシンポジウムの幕が閉じました。
ご来場いただいた皆さまには、朝早くから夕方まで丸一日、本当にありがとうございました。


関連資料

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   JST 社会技術研究開発センター 担当:大倉(m2seshim@jst.go.jp