領域架橋型シンポジウムシリーズ第8回「脳科学が取り持つ理系と文系の融合」開催報告

領域架橋型シンポジウムシリーズ第8回の開催報告です。

「脳科学と社会」研究開発領域
脳科学が取り持つ理系と文系の融合
―科学技術の未来へのキーワード―

日時:2010年2月20日(土) 13:00~19:30
会場:KFCホール(東京都墨田区)
主催:(独)科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(RISTEX)

21世紀は俯瞰統合論(Bird's-Eye-View Integrationism)の色濃い時代になると考えられ、専門細分化された諸分野を俯瞰的に架橋・統合して新分野・新技術を創発することが、学問分野のみならず産業分野でも必須と考えられはじめています。
 また、RISTEXが目指す「社会が直面する問題を解決するための研究開発」のためには、自然科学と人文社会科学など異なる分野の架橋・融合は避けて通れない課題であり、現在活動している全ての領域の多数のプロジェクトで実践し、多くの知見や成果が得られています。けれども実行するための方法論はまだまだ手探りという状況です。
 この「脳科学と社会」研究開発領域における領域架橋型シンポジウムシリーズは、脳科学に関係する異分野間の俯瞰統合を現実に進めようとする試みで、平成19年度に始まり、領域が今年度で終了するため、今回で最終回を迎えます。
 第1回「脳科学から英語教育へのアプローチ」、第2回「自閉症スペクトラム研究―早期マーカーと新たな療育法を求めて―」、第3回「睡眠と社会:脳科学からのアプローチ」、第4回「遺伝と環境の相互作用:氏か素性かの先端科学」、第5回「学習意欲をどうやって育むか―やる気に関する脳科学―」、第6回「社会性の脳科学―激動する現代社会を互いに協力して生き抜くには―」、第7回「研究開発成果の社会実装―社会問題解決のための活用と展開―」とさまざまな視点から開催してきましたが、第8回目は、距離の離れた異分野を現実に橋渡し・融合するための方法をテーマに、領域内で実践してきた経験の発表と将来の方向性についてのパネルディスカッションが行われました。
 寒さの厳しい土曜日の午後でしたが、会場となった両国のKFCホールには200名を越える参加をいただき、みなさん熱心に耳を傾けていらっしゃいました。


会場となったKFCホールエントランス


たくさんの方にご来場いただきました


小泉英明氏領域総括の小泉英明氏
(日立製作所・役員待遇フェロー)

領域総括の小泉英明氏(日立製作所・役員待遇フェロー)によるイントロダクション「応用脳科学による領域架橋の実践」では、これまでのシンポジウムの歴史を踏まえ、脳科学の研究における俯瞰的視点からの領域・架橋の重要性や、考え方の全く異なる学問の間で現実に成果を出すためには「Abduction」(仮説的推論)を基調として帰納と演繹を繰り返すことが大切であること、また「Trans-disciplinarian」(一人の人間の中で異分野を架橋・融合したリーダー)の必要性などが強調されました。


吉川弘之氏基調講演を行う吉川弘之氏
(科学技術振興機構 研究開発戦略センター長)

次に、吉川弘之・科学技術振興機構 研究開発センター長による基調講演「領域架橋の方法論」が行われました。
 現代は地球全体を調和させるためにあらゆる科学的知識を同時に使用しなければならない持続的進化の時代へと変化しつつある。
 持続的進化のためには、社会・地球環境の現象を出発点として、観察者・構成者・行動者の4者が作るループが提案される。科学的知識の社会使用という課題で考えると、進化するものとして自然と社会、そして観察者として自然科学と人文社会科学の科学者、構成者として工学者や政策科学者、行動者として教育者、技術者、経営者、政治家、行政者、報道者、制作家などのループである。現在このループはあらゆる面で不完全であり、実現すら大変難しい状況にあるが、研究と研究をつなぎ、基礎研究でもなく応用研究でもない、領域を超えた「本格研究」の機能的ネットワークやデータを作っていくことが、ループを加速させることになる。この機能的ネットワークを潜在的な社会的期待と結び付ける現実的な行為が初めて領域架橋を実現させる、というお話でした。

続いて領域内で研究開発を行った4名の研究者から、研究の概要と領域架橋の方法について発表が行われました。安藤寿康氏(慶應義塾大学教授)による「遺伝、環境、そして領域を架橋する双生児研究」、萩原裕子氏(首都大学東京大学院教授)の「英語教育への新しい切り口」、渡辺恭良氏(理化学研究所分子イメージング科学研究センター センター長)の「子ども達の学習意欲の低下を防ぐために」、山縣然太朗氏(山梨大学大学院教授)の「発達コホート研究における分野間架橋融合の実践」と続きました。


安藤寿康氏
(慶應義塾大学教授)

萩原裕子氏
(首都大学東京大学院教授)

渡辺恭良氏
(理化学研究所分子イメージング科学研究センター センター長)

山縣然太朗氏
(山梨大学大学院教授)

休憩をはさんで行われたパネルディスカッションは、小泉領域総括の司会のもと、ゲストパネリストに青木清氏(人間総合科学大学教授)を迎え、領域架橋・融合を行う際の具体的な方法や問題点、苦労した点が披露されました。


小泉英明氏ゲストパネリストの青木清氏
(人間総合科学大学教授)

理系と文系の溝もありますが、同じ文系であっても単語一つにしても分野ごとに意味合いが違うため理解しあうのが難しいこと、コホート型の研究では対象となる組織や人の協力を得ることが大きな障壁であること、領域架橋型の研究は論文を発表するジャーナルを選ぶにも苦心すること、また解決策として自分の中で理系文系の壁を作らないことや、個人個人が複数の専門性を持つことで一人の人間の中で領域架橋できる可能性など、経験に基づくさまざまな意見が出されました。
 会場からも質問やコメントが数多く寄せられ、活発な議論が交わされました。


活発な意見が交わされたシンポジウム

パネルディスカッション終了後、篠崎資志・社会技術研究開発センター 企画運営室室長の閉会挨拶によりシンポジウムの幕が閉じました。
 ご来場いただいた皆さまには、長時間、本当にありがとうございました。


ご来場いただいた方のご感想を一部ご紹介します(一部抜粋、修正あり)。
  • 吉川先生の知識・学問、そして今日の分科的な体系に関する発表は大変勉強になりました。大変有益なシンポジウムになりました。
  • 領域架橋型、全てのお話が大変興味深く、素晴らしい内容でした。脳科学は"人とのかかわり"というやはり課題として注目されていることに支えられていることがわかり、人としての基礎となる力を育む幼児教育の大切さを改めて感じることにもつながりました。
  • 新しい研究成果が複雑な研究方法により明らかになることは大変な科学の進歩だと思います。学問の統合により、未だ不明だったことが解明される事の効果に期待します。
  • 他分野研究、コホート研究の必要性に納得しました。難しいこともよく理解できました。
  • 領域架橋の必要性を強く感じていましたし、私自身の研究にも生かしたいと考えていました。方法、実践に伴う現状と課題を教えて頂くことができました。
  • 個別領域の理解が十分ではないので、「架橋」の問題点がピンとこない部分もありましたが、苦労した点をみなさんから話があったのは大変良かったと思います。「文系/理系」の話、ペーパー発表VS一般への発表も重要だと思います。
  • 先生方のご苦労を伺い、そういうご苦労を越えて成果を出されていることに感動しました。しかし、やはり研究したことが実践につながっていくことに意味があると思いますので、是非システムを作っていただきたいと思います。また研究の意味合いを広く伝えていってください。
  • 研究の苦労話が聞けたので、専門的な知識のほかに研究者にとって必要なことが理解できたのがよかったです。
  • 領域間のネットワーク化が進み今後、ますます脳科学が社会に寄与するよう願っております。
  • 上記の成果を国民にどう浸透させるのかが難しい問題だと思います。
  • H20年度から時々参加しているが、毎回大変有意義な内容でバラエティーに富んでいることに感心させられた。是非H22年度以降からも何らかの形で維持し、書類等にまとめてもらいたい。
  • 脳科学と社会は重要な研究開発テーマであり、今後も継続して続けてほしい。

関連資料

今回のシンポジウムの配布資料をご希望の方は、以下までメールにてお問い合わせ下さい。
   JST 社会技術研究開発センター 担当:大倉(m2seshim@jst.go.jp