「ユビキタス社会のガバナンス」シンポジウム開催報告

「情報と社会」領域の「ユビキタス社会のガバナンス」シンポジウム開催報告です。


「情報と社会」研究開発領域シンポジウム
ユビキタス社会のガバナンス
―Governance in Ubiquitous Society―

日時:2010年1月19日(火) 11:00~17:10
会場:富士ソフト アキバプラザ5F アキバホール(東京都千代田区)
主催:(独)科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(RISTEX)

「ユビキタス社会」は、私たちの生活をより便利に、より豊かにするという大きな恩恵をもたらしますが、情報社会の急激な進歩の影で深刻なデメリットも生じさせつつあります。科学技術の発展に人々の意識や倫理規範、社会科学や法制度が追いついていないことが問題をさらに大きくしているともいえます。
そこで、RISTEXの「情報と社会」研究開発領域では、この「ユビキタス社会」で必要とされる規律や管理方法はいかにあるべきかをテーマに、公募研究型プログラム「ユビキタス社会のガバナンス」を平成17年度から開始しました。 採択された研究プロジェクトは、情報セキュリティの確保や個人情報の保護などに代表される悪や悲劇の芽を摘み取るため、また予測されるよい点をよりよく進展させるための手段について、科学技術だけでなく人文・社会科学などの知見も統合した俯瞰的な視点をもって、社会的な問題解決のための研究開発を行っています。
今回のシンポジウムは、RISTEX(社会技術研究開発センター)の「情報と社会」研究開発領域の公募型プログラム「ユビキタス社会のガバナンス」のプロジェクトのうちの2つが本年度で終了するにあたり、3年間の研究成果を広く社会に発信するために開催しました。 小春日和の穏やかな日、会場となったアキバホールには180名を超えるみなさんにご来場いただきました。情報関連企業のご担当者や大学の研究者などスーツ姿の男性が会場を埋め尽くし、熱心に耳を傾けていらっしゃいました。


会場のアキバホールエントランス


180名を超えるご参加をいただきました


有本建男センター長

冒頭、有本建男・社会技術研究開発センター長による挨拶では、21世紀に入って情報技術は「道具」から「環境」になりつつあるが、社会も人々も企業もいまだ適応できていない。何のためのイノベーションであり、何のためのIT社会(技術)なのかを意識する必要があるという問題意識が提示されました。

挨拶を行う有本建男・社会技術研究開発センター長

土居範久氏領域総括:土居範久氏(中央大学 教授)

次に領域総括の土居範久氏(中央大学理工学部教授)による領域紹介が行われました。領域の目標は実証と実用が混在しながら展開しているユビキタス社会の光の部分を最大化し、影の部分を最小化することにより、ユビキタス社会の健全な成熟と恩恵を享受することであること、また領域内の各プロジェクトは実証実験をカバーした技術や手法などの具体的、成果を期待して採択され、その成果を広く発表するのが本日の場であることが紹介されました。


佐々木良一氏

続いて各プロジェクトの報告が始まりました。前半の座長は、東京電機大学教授で領域アドバイザーの佐々木良一氏です。

前半の座長は領域アドバイザーの佐々木良一氏
(東京電機大学 教授)

三上喜貴氏
(長岡技術科学大学 教授)

最初の発表は、三上喜貴氏(長岡技術科学大学 教授)。平成20年度に採択された研究プロジェクト「カントリードメインの脆弱性監視と対策」は、現在2年目で研究継続中ですが、成果の中間発表を行いました。
ドメイン名はIPアドレスや各種プロトコルなどと並んでインターネットを構成する重要資源の一つです。カントリードメイン(正確にはカントリー・コード・トップ・レベル・ドメイン、ccTLD)は国や地域ごとに割り当てられ、現在約250ありますが、管理方法はそれぞれの国や地域によって異なっています。例えばツバル共和国のようにカントリードメイン(.tv)を自由に世界に販売し外貨を稼いでいる国もあり、そのようにして取得されたドメインはスパムや不適切なコンテンツの温床となる危険があります。
このプロジェクトでは(1)カントリー・ドメイン・ガバナンスの実態を多面的に評価できる指標の開発、および(2)望ましいカントリー・ドメイン・ガバナンスのための具体的な諸原則を文書化することを目標として研究を進めており、その進捗状況が報告されました。
今後、2月に東京で国際ワークショップを開催、来年度のプロジェクト終了に向けて成果をまとめていかれるとのことです。


山田隆持氏
(株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ社長)

昼食休憩を1時間はさんで午後の部は、株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ社長の山田隆持氏による基調講演「ユビキタス社会におけるモバイルコミュニケーション」から始まりました。
携帯電話はサービス開始から約20年で固定電話の契約数を超え、現在は市場の成熟期に入っているそうです。講演では、NTTドコモが考えるモバイルコミュニケーションの進化の方向性とユビキタス社会における携帯電話の課題について約1時間にわたってお話をいただきました。


基調講演の様子


村上輝康氏

基調講演終了後、今年度研究終了した2つのプロジェクトについての成果の発表に移りました。ここで座長が交代。後半の座長は、野村総合研究所シニア・フェローで領域アドバイザーの村上輝康氏です。

後半の座長は領域アドバイザーの村上輝康氏
(野村総合研究所シニア・フェロー)

林紘一郎氏
(情報セキュリティ大学院大学学長)

まず、林紘一郎氏(情報セキュリティ大学院大学学長)から、「企業における情報セキュリティの実効性あるガバナンス制度のあり方」についての発表がありました。
情報社会の影の部分である情報セキュリティについて、企業においてどのようなガバナンスがなされるべきかについて、技術、マネジメント、モラル、法律という多角的な視点から、情報セキュリティが破られた場合の責任の所在や問い方、また情報資産の再定義、それぞれの企業の定めたセキュリティ・ポリシーの実効性などについて検討を行い、得られた知見から経営層(管理職)に向けた提言と個別提言を成果としてまとめられました。
印象深かったのは、①情報セキュリティの問題は企業の経営そのものであり、信頼に直結しているということ、②「ビジネス機会」と「リスク」は表裏一体の関係であり、リスクをとらなければ発展もないということ、③セキュリティポリシーについては文化的な問題が大きく日本的に考える必要があり、社風や特色が異なる他社のマニュアルを流用するのではなく、それぞれの企業が自ら生み出さなくてはならないということでした。


林春男氏(京都大学 防災研究所 教授)

最後の講演者は林春男氏(京都大学 防災研究所 教授)。「ユビキタス社会にふさわしい自治体のリスクマネジメント体制の確立」プロジェクトでは、地震などの災害時に自治体が行う被災者に対する生活再建支援を事例として研究開発を行いました。
災害時、自治体が生活再建支援を行うに当たっては被災者台帳の作成が必要ですが、現在のシステムは平時を基準として作られているため、災害時に「人(被災者)」と「家(建築や税金等)」と「被害(調査や証明書発行)」を結びつけるデータがないという問題点があります。また、個人情報保護などの情報セキュリティもやはり平時を基準として作られており、災害時の有効性が実証できていないのだそうです。
そこで、①平時に使用しているシステムが、災害時にもシームレスに移行できるデータベースを開発、②情報セキュリティを保持するための現状の情報処理システムの検証とリスクマネジメント体制の確立、③災害時の情報システムを有効に活用する人材の教育プログラムの開発、の3つをテーマとして研究開発を行い、自治体で実装と検証を行い、成果として発表されました。


盛り上がったパネルディスカッション

コーヒーブレイクをはさんでパネルディスカッションとなりました。 座長は領域アドバイザーの山口英氏(奈良先端科学技術大学院大学教授)。國領二郎氏(慶応義塾大学 教授)、須藤修氏(東京大学 教授)をゲストパネリストとしてお招きし、林紘一郎氏と林春男氏を交え、「企業・自治体の組織経営とリスク管理」をテーマに「新春大放談会」と題して活発な討論が交わされました。放談会ということで「ここだけの話」もたくさん飛び出し、大変面白く、かつ内容の深いパネルディスカッションとなりました。

パネルディスカッション終了後、篠崎資志・社会技術研究開発センター 企画運営室室長の閉会挨拶によりシンポジウムの幕が閉じました。ご来場いただいた皆さまには、長時間、本当にありがとうございました。


来場いただいた方のご感想を一部ご紹介します(一部抜粋、加筆あり)。
●研究中間発表「カントリードメインの脆弱性監視と対策」(三上喜貴氏)について
  • 諸国間の格差を多方面から計測していることに新鮮な驚きを感じるとともに、ガバナンスの必要性も認識した。
  • ドメイン資源配布の考え方と実際の運用状況に乖離があり、今後どうなっていくべきか、一概に結論づけられないところが面白い。
●研究成果発表「企業における情報セキュリティの実効性あるガバナンス制度のあり方」(林紘一郎氏)について
  • 企業責任について考えさせられた。
  • リスクに挑む活力ある社会、企業、個人を育成してほしい。
  • このような観点からの研究は少なく、今後も継続して研究を続けてほしい。
  • 実態に即した内容が参考になった。業務に反映できる示唆を得ることができた。
●研究成果発表「ユビキタス社会にふさわしい自治体のリスクマネジメント体制の確立」(林春男氏)について
  • あらかじめ災害時のことを考えてシステムを構築することの重要性を改めて認識した。
  • 災害時に自治体による現状把握と具体的な事務対応におけるユビキタス化は極めて重要であり、国の責務として確立してほしい。
  • 現場に踏み込んだ研究で、このシステムの販促をいかに進められるかを知りたい。
  • 実態に即したアプローチには説得力がある。GISを使った緩やかな連携が示唆に富んでいる。
●基調講演「ユビキタス社会におけるモバイルコミュニケーション」(山田隆持氏)について
  • 携帯端末の現状や将来について分かりやすく勉強になった。
  • 携帯電話、ネットワークを活用した今後の進化に期待できると感じた。
  • 携帯の進化の方向性がわかりやすかった。
●パネルディスカッションについて
  • 個性あるパネリストのユニークな本音がたくさん出て楽しく、勉強になった。
  • 新春放談仕立てのディスカッションは面白かった。
  • 普段聞けない「意見」など、自由な議論が素晴らしかった。今後も続けてほしい。
  • 「事故前提社会」「みそぎ」など、興味深いキーワードが多かった。
●シンポジウム全体について
  • 抽象的で難しいテーマであるが、有意義で面白かった。
  • 個人をどのように守るのか、グローバル社会ではだんだん難しくなってきている。都市と地方の関係、日本と海外の関係などを明らかにしていくことが必要である。
  • 研究終了後、それぞれのプロジェクトが社会活動にどれほど浸透したか(役に立ったか立たなかったか)の評価の場があるとよい。

関連資料

今回のシンポジウムの配布資料をご希望の方は、以下までメールにてお問い合わせ下さい。
JST 社会技術研究開発センター 担当:大倉(m2seshim@jst.go.jp