「科学技術と知の精神文化」公開シンポジウム開催報告

公開シンポジウム「科学技術と知の精神文化-新しい科学技術文明の構築に向けて-」開催報告です。





公開シンポジウム
「科学技術と知の精神文化-新しい科学技術文明の構築に向けて-」

日時:2009年12月11日(金)13:00-17:00
会場:日本学術会議1階講堂(東京都港区)
主催:日本学術会議
(独)科学技術振興機構 社会技術研究開発センター

12月11日、「科学技術と知の精神文化-新しい科学技術文明の構築に向けて-」と題するシンポジウムを日本学術会議と(独)科学技術振興機構 社会技術研究開発センターの共催で開催しました。

エントランス
会場となった日本学術会議エントランス

世界が大きな時代の転換期を迎えている現在、科学・技術、そして学問は何をよりどころとし、どこへ向かうべきなのか。この問いに答えを出すためには、人々の精神・規範・文化と科学技術の関係を歴史に学び、さまざまな観点から議論を深めていく必要があります。今回のシンポジウムは、科学・技術を進める上で基盤となる精神文化、そして学問と社会の将来について、新たな公開討論の場を設けることを趣旨として開催されました。
師走の冷たい雨が降る中、約250名もの参加をいただき、テーブルのない後部傍聴席までいっぱいになるほど。会場は熱気にあふれていました。

客席
熱心な聴衆で埋まった客席

日本学術会議・金澤一郎会長の開会挨拶では、OECDが行った57ヵ国における国際的な学生(15歳児)の学習到達度調査(PISA)において、日本は理科で世界6位という成績だが、(15歳の時点で)30歳の時に科学に関連した仕事についていたいと思う生徒の割合はたった8%(OECD平均は25%)、57ヵ国中なんと最下位であるという問題が指摘されました。成績は優秀だが、科学に対するモチベーションが低く、理科離れを起こしている子どもが多いということであり、次の世代を意識した行動・活動が大事であると強調されました。

金澤一郎会長
開会挨拶を行う日本学術会議・金澤一郎会長



阿部博之氏
基調講演を行う阿部博之氏

その後、阿部博之氏(東北大学名誉教授)の基調講演「科学技術の振興とその基盤となる文化」では、創造力の重要性、また未来社会の創造に向けて世界的な課題の解決のためには科学技術の果たす役割が大きいこと、21世紀の日本は独自の知を創出し、実現していく社会であるべきだが、精神文化の議論は拙速であってはならず、多面的な議論が必要であることが強調されました。

続いて石井紫郎氏(東京大学名誉教授)による「『記紀』神話に見る法律解釈論の濫觴?」、和田昭允氏(東京大学名誉教授、(独)理化学研究所研究顧問)による「精神文化としてのサイエンス」、村上陽一郎氏(東京理科大学大学院科学教育研究科教授)「文化と文明―『日本文明』はあり得るか―」の特別講演が行われました。




石井紫郎氏

和田昭允氏

村上陽一郎氏

コーヒーブレイクをはさんでパネル討論となりました。パネリストは野家啓一氏(東北大学理事・附属図書館長)、北原和夫氏(国際基督教大学教養学部教授)、黒田玲子氏(国際科学会議副会長、東京大学大学院総合文化研究科教授)、西口泰夫氏(同志社大学大学院ビジネス研究科客員教授、元京セラ㈱会長兼CEO)、大垣眞一郎氏((独)国立環境研究所理事長、日本学術会議副会長)の5氏。司会は有本建男・社会技術研究開発センター長が務めました。

パネル討論の登壇者
パネル討論の登壇者。活発な議論が交わされました

幅広いバックグラウンドを持つ登壇者が、歴史、哲学、教育、文明と文化、時間と空間、産業、経済、自然環境など多様な視点から、学問や科学・技術の過去・現在・未来について語り、刺激的な議論の場となりました。また、パネル討論中の質疑では、会場の参加者より多数の質問やコメントが出され、活発な意見交換が行われました。

終了後のアンケートでは、参加者の約半数という、大変多くの方からご回答をいただき、本当にありがとうございました。9割以上の方がシンポジウムを「有意義だった」と評価してくださいました。研究者や企業関係者をはじめ多くの方が深い関心を示し、今後議論がさらに広がることが期待されます。

●アンケートでいただいたご意見・ご感想(抜粋、修正加筆あり)
  • 贅沢な講壇者が揃っていて充実していた。
  • 高名な先生方が本気で科学技術と文化を考えてやっていることがわかり、勇気を持てた。
  • 自分の居場所を考え直すきっかけとなった。
  • 今後の日本のあり方を考えるためのベースとして参考になる。
  • 科学技術や学術全体のあり方に影響を与える学術の基盤となる文化的背景の重要性を議論することは、最終的には市民参加の科学活動の意義を考えることにつながる。
  • 科学技術や学術体系を形づくる上で、変化するダイナミックな対象に適応していく重要性を学んだ。
  • 自分の専門に関係なくさまざまな分野の方々の考え方や思いを知ることができた。また、自分の考えと共通、相違部分を知ることができ、よいきっかけとなった。
  • 哲学・思想にも目を向けた文理融合の視点を含んでいた。
  • 深い思考と経験値から将来を見据えた話を聞くことができた。
  • 科学技術をより幅広い視点から考えることが今後も必要。次回は金融と経済学の視点から科学の話が聞きたい。
  • 質疑応答の時間がたっぷりあったので、実りが多かった。
  • フロアからの質問が面白かった。
●また、アンケートの中で、「日本が今後、独自の知を創出し、実現していくために何が必要とお考えですか」という質問をしたところ、多くの皆さまから熱意のこもったご回答をいただきました。改めて感謝申し上げます。ご回答の一部をここに掲載させていただきます(抜粋、修正加筆あり)。
  • 人文・社会科学と自然科学との連携。
  • 科学によるあたらしい世界、生命、社会観の確立、日本人の持つ古来からの自然観が一致するといいのではないか。
  • 日本人としての精神性を高めること。まずは心の使い方+知識+品格だと思う。
  • 日本古来の精神(武士道・神道)と儒学、仏道の精神を学ぶこと。

  • 価値(哲学)と客観科学の融合、それを追求する教育。
  • 大学での教養教育を拡充させないと、独自の専門性が育たない。
  • 理系と文系を分けた教育(これは日本にしかないのでは?)の廃止。
  • 特別講演にあった「若い人が自分自身、家族、地域社会、日本、さらには世界人類の福祉と発展のために『一人の人間として全力を尽くした』と満足できる」道を考えさせる教育。すなわち社会全体の利益(幸せ)を考えた行動規範の議論が必要。
  • 長いスパンでの研究への担保。

  • 創造性を客観的に評価する研究と、受験制度を変える必要がある。また発明立国というコンセプトが日本復活のきっかけになると考える。

  • 独自の知を創出していくことは大事だが、何のために独自の知を目指すのかを忘れないことも重要。世界的な課題を解決するためなのか、日常をより楽しくするためなのか。学術を世界に提案し、リードするためなのか。答えはいろいろでしょうが、目的を失わないことが結果として独自にもなれるのでは。
  • 異質な多文化を受け入れるための準備が必要。それが教養であり、リテラシーであるとも思う。
●下記登壇者の方の講演内容が、Science Portalに掲載されています。
●また、Science Portalに掲載されている、本シンポジウム講演者による関連の深い提言もあわせてご覧ください。


関連資料

今回のシンポジウムの配布資料をご希望の方は、以下までメールにてお問い合わせ下さい。
   JST 社会技術研究開発センター 担当:三石(s2mitsui@jst.go.jp